内野義悠「抜錨」

澤好摩 推薦第三席

抜錨の濁りをとほく春の雪
胎名を授けてよりの水温む
花朧秘めごとは寝言に漏るる
スヌーズを繰り返しかげろふの中
はうれんさう湯掻き泳がしてゐる嘘
春の雨筋膜ほわと剥がれゆく
鳥雲に始まつてゐる倦怠期
初夏や原色のバブ浮かびくる
みどりの夜言葉ひたひた交はし合ふ
編集に増ゆる笑声せんぷうき
氷菓染みたりママ友に派閥あり
大夕立去り総身の血の軽く
二百十日小刻みな上書き保存
飛ばせない動画広告小鳥くる
檸檬搾りてぱつちりとドライアイ
間に合つてしまふ女子会ピーナッツ
プラレール脱線したる小春かな
鯛焼を分け合ひ赦してはをらず
逸らす眼や雪兎また固く締む
人住まぬ住所あふるる都市に雪

中村たま実「ふうせん」

澤好摩 推薦第二席

スカートの襞の正しき四月かな
琺瑯の由美かおる笑む種物屋
あの赤い点は風船なんだろう
内からは開かぬドアや梅雨の入り
橘の花や亡母の鯨尺
帆布トートに澄子の句集七変化
冷やし中華女子ゴルファーのカレンダー
ハンモックいちゃいちゃといふオノマトペ
回し飲むポカリスエット雲の峰
老翁の裸身キリストめく真昼
反る背に翼の名残ねじればな
すててこや放屁に返事する妻と
秋暑し震へて止まる洗濯機
空高し双子専用ベビーカー
埋め立ての町に浜の名みやこ鳥
湯気立てや役割ごとのユニフォーム
猪鍋やまず靴下を脱ぐ男
雪つぶて好きの重さが不等号
駆け足の形の木馬春愁ひ
三月や「あの日」と名付く日のありて

第五回円錐新鋭作品賞 編集部より

過去最多67編のご応募をいただきました(第一回の募集は47編、第二回は40編。第三回は58編、第四回は46編)。実に驚きです。同人誌の企画にこれだけ多くの方々が参加してくださることに、感動しています。

 募集条件は、未発表の20句(多行作品は10句)。作者の俳句歴や年齢などの条件、一切不問。選考は、円錐編集部・澤好摩、山田耕司、今泉康弘。ご応募の折に、編集部からは各作者に版面の著者校正を依頼。それから審査に。今回は、感染症拡大予防への対応として、座談会はいたしませんでした。各自が自分のペースで選び、評を執筆しています。 

 審査の上、20句を対象に、第一席から第三席までを選出。1句単位での顕彰は、5句。あらたに「これからに期待する作家」という枠を設けさせていただきました。

 編集部としては予想していたことではあるのですが、三人の審査員の推薦作品が、まったく、重なりません。バラバラです。これこそが、個々の価値観を頼みに活動する同人誌ならではの結果、と言えるのかもしれませんが。

 ご応募くださいました皆様、そして、募集情報の拡散などにご尽力くださいました皆様に、あらためて感謝と敬意を捧げたく存じます。           

             (円錐編集部・山田)

第五回円錐新鋭作品賞

花車賞(澤好摩推薦)

森 瑞穂 「吊革の穴」  読む 

白桃賞(山田耕司推薦)

原麻理子 「距離」    読む

白泉賞(今泉康弘推薦)

摂氏華氏 「王の行方」  読む

推薦作品(一句推薦)   読む


澤好摩  第二席 中村たま実「ふうせん」 読む

澤好摩  第三席 内野義悠「抜錨」 読む

澤好摩  奨励賞   古田秀「立方体」

山田耕司 第二席 綱長井ハツオ「ズキズキ、キリキリ、ムカムカ」読む

山田耕司 第三席 五十嵐一真「真昼の手帳」 読む

山田耕司 林檎賞 千住祈理 「筑波研究学園都市」

今泉康弘 第二席 夜行「飼ひならす」 読む

今泉康弘 第三席 中矢温「はい」 読む

今泉康弘 エリカ賞 藻屑ちゃん「きみにDM」


澤好摩  選評 最初の読者としての作者 読む

山田耕司 選評 〈文は文なり〉を基準として 読む

今泉康弘 選評 光を求める事は光になる事 読む


第五回円錐新鋭作品賞 編集部より 読む

第五回推薦作品

澤好摩 推薦

埋め立ての町に浜の名みやこ鳥    中村たま実   
抜錨の濁りをとほく春の雪       内野義悠
らしからぬことをしてゐる雛祭    霜田あゆ美 
ふいに来るその日はいつか凧      植田井草
夏未明そっとバールのようなもの    うっかり

山田耕司 推薦

缶詰にぐずる水音秋深し    クズウジュンイチ
ピンボール突き撃つコルク終戦日     佐藤修 
にはたづみ鼠花火を往なしたり    舘野まひろ
進むからこぐのをやめて晩夏光     田中木江     
かけっこの脚うずまきで描く木の芽時 細村星一郎

今泉康弘 推薦

窓開けて春をお部屋に案内す      大野美波
パーカーの手とか林檎を入れる部分   田中木江  
脳に打つ成人の日のチップかな    高林やもり
カトレアやうつくしいはらわたばかり  佐々木紺      
ぎろちんの安全装置胡瓜揉      中町とおと

白桃賞 原麻理子 「距離」  

冷めてすぐしぼむケーキや春の風
こでまりの花すれ違ふときの距離
カーネーション人々の呼気混ざり合ふ
通話がしたい葉桜いつせいに窓を
まだ梅雨ぢやない雨ここにゐない人
紫陽花の葉のごはごはと布巾煮る
あの蟬と思ふをととひ見た羽化の
見せていい服日盛りの戸が開いて
窓のある封筒メロンの熟れてをり
ゆふがたや水といつしよに買ふ花火
朝顔の閉ぢて脚立の横だふし
親しさや桃の入つてゐたくぼみ
マグカップ洗つて帰る良夜かな
月しばらく見上げて入る広い部屋
初雪や肉屋に金のステッカー
十二月高速道路の幅の川
クリスマス重ねて仕舞ふ軽い椅子
雪にフードの人の向かふへ薄くなる
梅のもう咲く目が合へば会釈する
花を見てゐる牛乳を買ひに出て

花車賞 森瑞穂「吊革の穴」

シャンプーの泡のふくらむ余寒かな
水になるとき匂ひたるうすごほり
疾走を待つたてがみや風光る
茹で残るパスタの芯や花の昼
名刺入れふくらんでゐる四月かな
朝寝して遠き汽笛を聞いてをり
ブラウスの釦真白く夏に入る
太宰のみならぬ心中夏の雨
短夜や頁に栞紐の跡
吊革の穴より見ゆる夏の海
髪切つて秋風すこし軽くなる
団栗を拾つて海に遠き町
秋晴の校舎の窓の広さかな
三面鏡夜は閉ぢられて冬に入る
しぐるるや手紙にかすかなる湿り
冬青空尻につめたき滑り台
愛は告げざるマフラーに顎深く
セーターを脱いで背骨の残りたる
駆け上がる駅の階段クリスマス
雪と言ふ横顔見つめられてをり

第五回 円錐新鋭作品賞募集!


それは、俳句。これも、俳句。

受付開始 2021年1月15日 応募締切 2021年2月15日

審査  澤好摩・山田耕司・今泉康弘

応募用アドレス ensuihaiku@gmail.com

お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの
連絡先をお書き添えください。編集部より連絡申し上げます。

未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。*作品にはタイトルをつけてください。*締め切り2021年2月15日*年齢・俳句歴の制限はありません。*受賞作品は「円錐」89号(2010年4月末日刊行予定)に掲載いたします。■

第四回円錐新鋭作品賞


花車賞(澤好摩 推薦)

「夜の学校に手紙を置いてきた」 来栖啓斗      →読む


白桃賞(山田耕司 推薦)

「適当」 千野千佳                    →読む


白泉賞(今泉康弘 推薦)

「窓がひとつだけあいてゐて」 たかなしあきら     →読む


推薦句                      読む


選考対談                      読む


俳句同人誌「円錐」第 85号誌上にて発表(2020年4月30日発行)