花車賞 森瑞穂「吊革の穴」

シャンプーの泡のふくらむ余寒かな
水になるとき匂ひたるうすごほり
疾走を待つたてがみや風光る
茹で残るパスタの芯や花の昼
名刺入れふくらんでゐる四月かな
朝寝して遠き汽笛を聞いてをり
ブラウスの釦真白く夏に入る
太宰のみならぬ心中夏の雨
短夜や頁に栞紐の跡
吊革の穴より見ゆる夏の海
髪切つて秋風すこし軽くなる
団栗を拾つて海に遠き町
秋晴の校舎の窓の広さかな
三面鏡夜は閉ぢられて冬に入る
しぐるるや手紙にかすかなる湿り
冬青空尻につめたき滑り台
愛は告げざるマフラーに顎深く
セーターを脱いで背骨の残りたる
駆け上がる駅の階段クリスマス
雪と言ふ横顔見つめられてをり