内野義悠「抜錨」

澤好摩 推薦第三席

抜錨の濁りをとほく春の雪
胎名を授けてよりの水温む
花朧秘めごとは寝言に漏るる
スヌーズを繰り返しかげろふの中
はうれんさう湯掻き泳がしてゐる嘘
春の雨筋膜ほわと剥がれゆく
鳥雲に始まつてゐる倦怠期
初夏や原色のバブ浮かびくる
みどりの夜言葉ひたひた交はし合ふ
編集に増ゆる笑声せんぷうき
氷菓染みたりママ友に派閥あり
大夕立去り総身の血の軽く
二百十日小刻みな上書き保存
飛ばせない動画広告小鳥くる
檸檬搾りてぱつちりとドライアイ
間に合つてしまふ女子会ピーナッツ
プラレール脱線したる小春かな
鯛焼を分け合ひ赦してはをらず
逸らす眼や雪兎また固く締む
人住まぬ住所あふるる都市に雪