夜行「飼ひならす」

今泉康弘 推薦第二席

沈みゆく重油いそぎんちやくは花
放課後のぶらんこにしたがつてゐる
啓蟄の肉がケバブとしてまはる
山笑ふ心理テストの何問目
エイプリルフール毛抜きの可動域
さかさまはどつちくらげとわたくしと
噴水やピエロのボール二つ三つ
あまやかに黴あり祖父の蔵書印
近づいてここからは滝だと思ふ
蚯蚓のたうつて癖字のごときなり
八月や島いつぱいに雲の影
牛の胃を磁石のすべる残暑かな
赤血球ぽこんと生まれ今日の月
憂鬱なテーブル林檎置いてより
めそめそと銀木犀の匂ふ夜
太陽はからつぽ鯨ねむりをり
四階にピラルクとゐて遠き火事
枯蔦の支へるビルでありにけり
寒波来てかかしのあつた穴のいろ
雪だるまに足は与へず飼ひならす