五十嵐一真「真昼の手帳」

山田耕司 推薦第三席

趣味があることがやましい新社員
春の風邪昼のテレビに暮らしあり
ヒヤシンスためらひ傷のすぐ治る
蜃気楼無言でできる指遊び
亀が鳴くときの気持ちをおしはかる
アイスティー昼の句作に飽きてきて
パラソルを広げて海に帰ります
好きだつたビデオテープがカビてゐる
蚊を打つていまほど打つた蚊のはなし
前を行く人から盗む踊り方
また別の胡桃を剥いてまた口に
手に菊や喪服の中はくたびれる
眠くなる家具屋のはなし小鳥来る
ザッピング相撲が早く終はればな
コスモスや諦めきつた患者たち
小春日のうずら崩さぬやうに抱く
外に出てスキー客にはよい笑顔
雪催遊具貧しくなりにけり
冬埃バブルの頃の変な本
跳び箱に獏の臭ひや去年今年