白泉賞 摂氏華氏 「王の行方」

落椿宙にとどまる殺戮史
わたつみや大本営の春燈
仲たがひしてゐる三色菫かな
すめらぎの股肱となりし揚雲雀
葉桜に揉まれてゐたる御真影
神統譜偽書を曝書のさきがけに
盤上の王の行方や敗戦日
冷麦や玉音盤のよく回る
鈴虫や闇に継ぎ目のありにけり
手をふれてゆく白萩に隙間かな
モザイクをかけても桐一葉とわかる
花八手教育勅語に朕の文字
枇杷の花入江は紺を流したる
太郎冠者くさめしてゐる鳥屋かな
玉に乗る象のこころや冬銀河
黄の密を荘厳したる柚子湯かな
コロナウイルス何を喰ふらむ初御空
百万回再生したるマスクかな
鯛焼きの餡を拳でたたき出す
雪片は雪片を消しながら降る