白泉賞 星野いのり「通信表」

さくらふるみんなでコロナごっこしよ
新しい本はツルツルチューリップ
かえるぴょこぴょこ一人でもお留守番
遠足もお昼の鬼ごっこもなくて
給食はみんながとおいしゃぼん玉
五月六月くっついて九九の数
先生がさいしょのコロナぶどうゼリー
給食のでかいエプロンかたつむり
水筒をふってふりまわして涼しい
もうずっと休みのメイの傘にカビ
なんどでも動画の花火大会は
休んだら朝顔しわしわになった
真っ赤な月があつあつで苦しそう
アルコールティッシュとどんぐりのポッケ
三組はコロナのクラスくるみパン
みかんむく陽南乃の顔をずっと見る
たたかれた黒板消しはせきこんで
順番に雪をさわった手を洗う
手ぶくろで配るクリスマスのケーキ
きれいな手きれいなマスクさようなら

小泉野魚 「すいぎよ」

山田耕司 推薦第二席

冬やがて果実酒となる金魚かも
文字化けの海のわきたつ冬牡丹
粕汁を吹けば逆説めく尾骨
遠火事や会員証の失せしまま
Jアラート鮫に臓物戻らざる
寒肥の指に水輪のまとひつく
皸に鱗のささるたんじやうび
しにがほのゆたかなるうを冬終る
寒鯉の月の裏より出でし匂ひ
雪解けや彼の日の反古のくきやかに
良き詩語の受精あれかし春の雷
草餅や輪郭ゆるぶ旅鞄
たみぐさを喰ろうて巨魚の口あたたか
揚ひばり電気に濡れゆける町を
朧月うをの尿意をかんがへる
龍天に突けばどろりと目玉焼
水圧ををさめ水槽シネラリア
逃水を追ふにくすりの名を唱ふ
胎児は鰓失ふ頃か花筏
地球史のすなはち魚類飼育譚

第六回円錐新鋭作品賞募集要項

*未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。

*作品にはタイトルをつけてください。

*受付開始 2022年1月15日

*締め切り 2022年2月15日

*年齢・俳句歴の制限はありません。

*受賞作品は「円錐」93号(2022年4月末日刊行予定)に掲載いたします。

ご応募の際には、お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの
連絡先をお書き添えください。折り返し、編集部より連絡申し上げます。

作品送付・お問い合わせ先  ensuihaiku@gmail.com

中矢温「はい」

今泉康弘 推薦第三席

信号が長くて鳩を見てしまふ
見て仕舞ふ液晶割れてゐていつも
ゐていつも欲しいアボカドでも足りる
でも足りるなら呼ばなくて二人きり
二人きりがじと歯形をストローに
ストローに唇運ぶ映画館
映画館から見えつぱなしの居酒屋の
居酒屋のハンガー譲りあうて勝つ
会うて勝つだけ指相撲君からの
君からのリンク長くてよいサイト
よい犀と世界の国旗覚えたし
覚え足しナンプラーか料理運ばれ
料理運ばれ端に押しやる旧手帳
古手帳たしか落としてダム近く
ダム近く化けて私と犬は鴨
犬は鴨見たまま散歩まつすぐに
まつすぐにまつくら吹かすマフラーを
マフラーを巻いて荷物を軽くする
軽くするつもりで短すぎる髪
過ぎる神さまのアンテナ信号が

夜行「飼ひならす」

今泉康弘 推薦第二席

沈みゆく重油いそぎんちやくは花
放課後のぶらんこにしたがつてゐる
啓蟄の肉がケバブとしてまはる
山笑ふ心理テストの何問目
エイプリルフール毛抜きの可動域
さかさまはどつちくらげとわたくしと
噴水やピエロのボール二つ三つ
あまやかに黴あり祖父の蔵書印
近づいてここからは滝だと思ふ
蚯蚓のたうつて癖字のごときなり
八月や島いつぱいに雲の影
牛の胃を磁石のすべる残暑かな
赤血球ぽこんと生まれ今日の月
憂鬱なテーブル林檎置いてより
めそめそと銀木犀の匂ふ夜
太陽はからつぽ鯨ねむりをり
四階にピラルクとゐて遠き火事
枯蔦の支へるビルでありにけり
寒波来てかかしのあつた穴のいろ
雪だるまに足は与へず飼ひならす

五十嵐一真「真昼の手帳」

山田耕司 推薦第三席

趣味があることがやましい新社員
春の風邪昼のテレビに暮らしあり
ヒヤシンスためらひ傷のすぐ治る
蜃気楼無言でできる指遊び
亀が鳴くときの気持ちをおしはかる
アイスティー昼の句作に飽きてきて
パラソルを広げて海に帰ります
好きだつたビデオテープがカビてゐる
蚊を打つていまほど打つた蚊のはなし
前を行く人から盗む踊り方
また別の胡桃を剥いてまた口に
手に菊や喪服の中はくたびれる
眠くなる家具屋のはなし小鳥来る
ザッピング相撲が早く終はればな
コスモスや諦めきつた患者たち
小春日のうずら崩さぬやうに抱く
外に出てスキー客にはよい笑顔
雪催遊具貧しくなりにけり
冬埃バブルの頃の変な本
跳び箱に獏の臭ひや去年今年

綱長井ハツオ「ズキズキ、キリキリ、ムカムカ」

山田耕司 推薦第二席

汗臭く重く悪夢ばかりの蒲団
唇の剥がれて白し神渡し
蟷螂枯れて血でも水でもなき臓腑
椅子の螺子ゆるし勤労感謝の日
山茶花やこむら返りに似た怒り
歩くより早く時雨の去りにけり
冬凪や鴉の羽根がとんと浮く
鋭さを増して枯木の枝千本
霙るるやコンビニの自己啓発書
バファリンの裏側平ら虎落笛
宮線を添えて程よく固き痰
クリスマス身体のどれほどが空洞
手袋で覆う手首の脈までを
雪掻す腕は骨より太きもの
海側の者から暮れてうつた姫
冬暮光マリモほこんと弾みけり
牡蠣フライ食いぬ牡蠣見ることもなく
食道は肺のすぐそば滑子汁
キスシーン長しストーブまだ臭し
師走師走フッと冷たくなるシャワー