白桃賞 原麻理子 「距離」  

冷めてすぐしぼむケーキや春の風
こでまりの花すれ違ふときの距離
カーネーション人々の呼気混ざり合ふ
通話がしたい葉桜いつせいに窓を
まだ梅雨ぢやない雨ここにゐない人
紫陽花の葉のごはごはと布巾煮る
あの蟬と思ふをととひ見た羽化の
見せていい服日盛りの戸が開いて
窓のある封筒メロンの熟れてをり
ゆふがたや水といつしよに買ふ花火
朝顔の閉ぢて脚立の横だふし
親しさや桃の入つてゐたくぼみ
マグカップ洗つて帰る良夜かな
月しばらく見上げて入る広い部屋
初雪や肉屋に金のステッカー
十二月高速道路の幅の川
クリスマス重ねて仕舞ふ軽い椅子
雪にフードの人の向かふへ薄くなる
梅のもう咲く目が合へば会釈する
花を見てゐる牛乳を買ひに出て