佐藤日田路 「暗室」

今泉康弘 推薦第二席

あるだけの乳房に浮力春愁ふ
草朧どくんとネアンデルタール
蟻穴を出る戦争に行つてくる
あばら骨一対外し鷹鳩に
花冷えや病院船に窓がない
死の底へ目高の白き薄濁り
ひかひかと月へ誘ふ海月かな
言語野に大蛇一匹飼ひ殺す
向日葵畑片耳を削ぐ蒼く
背筋の闇にうごめく熱帯夜
稲妻や頸に吸ひつく緑髪
革命の饐えた匂ひのして飛蝗
虚空蔵菩薩曼荼羅曼珠沙華
鳥渡る竜骨突起軋ませて
榠樝の実すぐ死にたがるエゴイスト
冬帽子瞳痩せたるモジリアニ
吹雪ふぶき誰のものでもない手足
牡蠣啜る海の匂ひは血の匂ひ
悴むや骨器めきたる手のスパナ
がうがうと前歯を揃へ春を待つ

第六回 円錐新鋭作品賞

花車賞(澤好摩推薦)

木幡忠文 「去るとき」  読む

白桃賞(山田耕司推薦)

小谷由果 「漣」     読む

白泉賞(今泉康弘推薦)

星野いのり 「通信表」  読む

推薦作品(一句推薦)   読む

澤好摩   第二席  土屋幸代 「日日」   読む

澤好摩   第三席  稲畑とりこ 「骨と肉」 読む

澤好摩   奨励賞  内野義悠 「さめぎは」

山田耕司  第二席  小泉野魚 「すいぎよ」 読む

山田耕司  第三席  榊原遠馬 「たわごと」 読む

山田耕司  林檎賞  吉冨快斗 「糸芒」

今泉康弘  第二席  佐藤日田路 「暗室」  読む

今泉康弘  第三席  高田祥聖 「シャンデリア」 読む

今泉康弘 エリカ賞 雨宮あみな 「綿毛の至り」

・・・

澤好摩  選評 言葉に対する畏敬の念    読む

山田耕司 選評 それは孤独の味がして    読む

今泉康弘 選評 俳句らしさはあなたが作る  読む

・・・

第六回円錐新鋭作品賞 編集部より  読む

白泉賞 星野いのり「通信表」

さくらふるみんなでコロナごっこしよ
新しい本はツルツルチューリップ
かえるぴょこぴょこ一人でもお留守番
遠足もお昼の鬼ごっこもなくて
給食はみんながとおいしゃぼん玉
五月六月くっついて九九の数
先生がさいしょのコロナぶどうゼリー
給食のでかいエプロンかたつむり
水筒をふってふりまわして涼しい
もうずっと休みのメイの傘にカビ
なんどでも動画の花火大会は
休んだら朝顔しわしわになった
真っ赤な月があつあつで苦しそう
アルコールティッシュとどんぐりのポッケ
三組はコロナのクラスくるみパン
みかんむく陽南乃の顔をずっと見る
たたかれた黒板消しはせきこんで
順番に雪をさわった手を洗う
手ぶくろで配るクリスマスのケーキ
きれいな手きれいなマスクさようなら

小泉野魚 「すいぎよ」

山田耕司 推薦第二席

冬やがて果実酒となる金魚かも
文字化けの海のわきたつ冬牡丹
粕汁を吹けば逆説めく尾骨
遠火事や会員証の失せしまま
Jアラート鮫に臓物戻らざる
寒肥の指に水輪のまとひつく
皸に鱗のささるたんじやうび
しにがほのゆたかなるうを冬終る
寒鯉の月の裏より出でし匂ひ
雪解けや彼の日の反古のくきやかに
良き詩語の受精あれかし春の雷
草餅や輪郭ゆるぶ旅鞄
たみぐさを喰ろうて巨魚の口あたたか
揚ひばり電気に濡れゆける町を
朧月うをの尿意をかんがへる
龍天に突けばどろりと目玉焼
水圧ををさめ水槽シネラリア
逃水を追ふにくすりの名を唱ふ
胎児は鰓失ふ頃か花筏
地球史のすなはち魚類飼育譚