土屋幸代 「日日」

澤 好摩 推薦第二席

葉桜や持ち手に結く家の鍵
レース着て手の静脈の華やげる
夏帽に登山ピンズの古りゐたり
杖で突く路傍の石や今朝の秋
湯上がりの口は滑らか終戦日
昼食の割れない食器野分立つ
文旦や樋に烏の爪の音
腰で押す椅子や風邪声案じつつ
温室のやうな広間に着膨れて
湯に入るや柚子湯の柚子を追ひたてる
一口目は届かぬあんこ冬うらら
電球の一つが暗きクリスマス
冬の日の背を看護師に預けをり
羊日の日差しに遊ぶ埃かな
梅早し日向に寄せる車椅子
オルガンに積まるる雑誌春隣
写し書く明日の献立クロッカス
揺れてゐる雛の天冠昼の地震
託さるる遺作の富士や名草の芽
漫々と潮の匂ひの春の河