稲畑とりこ 「骨と肉」

澤 好摩  推薦第三席

八月や玩具の鯱の鋭き齒
捥ぎ取りて葡萄に指のくぼみかな
ひとつひとつ磨く小さき歯漱石忌
口籠り熱燗音を立てて呑む
万両や紙垂の折目は新しく
ロボットに哀しき瞼ある三日
悴みてハンドルへ挿す文庫本
地球儀の海に人日の凡例
凍滝のひとすぢ滝を残しをり
春燈や水面のごとき君の爪
乳飲み子の頭蓋に長閑なる継目
ゆびさきの粘土あかるし菜種梅雨
春闌けて骨は腐らぬやうにされ
寝ぬ吾子と青蘆原へ来てしまふ
防砂林沿いの国道五月来ぬ
青あらし翅持つものは裏がはへ
擦り傷を隠し白玉噛みちぎる
空蝉の吻に土くれ朝清し
骨と肉みな短夜の詩となりぬ
ガネーシャの掌のしわ夏の果