細村星一郎「喝采」

今泉康弘 推薦 第二席

手繰り寄せれば鋼鉄の糸だった
喝采をそのまま海へあけわたす
迷いこんだ鳥を粗雑に塗ってもいい
霙浴びても浴びても手には割れた水晶
硬質な回転を血が嬉しがる
私を刺していった光の蛾 ふらふら
触れてきた木々がコントラバスを鳴る
朧はわたし 誰かの投げたブーメラン
シグナルに触れても鹿のもとまで走る
モノリスは胸の夏野に咲く楔
飛び込めば草の文様 繰り返す
水の刺繍 ゆれる梯子に立っていたい
かぐわしく私を動く蛇もいる
桃色の弾丸:部屋を跳ね回る
夏草は眠りの海を轟くか
いま旗に命の煙描き記す
糸の心臓:まばゆく墜ちる針の先
低く飛びながら椿の赤を思う
砂丘を登るきれいな錨持ったまま
山を透く一滴があり両眼で見る

あさふろ「点滅」

山田耕司 推薦 第三席

日だまりを目皿の泳ぐ淑気かな
白菜に水をあやまりつづけをり
ひしひしとひかりを語る椿餅
囀や一円玉に傷あまた
鳥影の輪転したる花曇
緑さすガードレールの痛ましき
水平線をはじく睫やレモン水
夏蝶の点滅したるアーケード
海光や黒蟻の背の透きとほる
能面はなで肩だらう冷し瓜
天井を見下ろしてゐる昼寝覚
煙草吸ふ肘の重さや夏の月
白桃を剥く親指の暗がりに
膝下の遠のいてゆく残暑かな
宵祭ひとの匂ひをうつし合ふ
紙コップ二つ離れぬ秋半ば
冬林檎無蓋列車を通過させ
雪の夜は十二階建ての翻車魚
風花や柱の心地して老ゆる
冬空に窓穿ちたる脚立かな

藤田俊「口腔」

山田耕司 推薦 第二席

チーズの名挙げて朝寝へもどりけり
朧夜の魚肉ソーセージの金具
亀鳴いて辞令を渡す・渡される
嚙んでいる鶏の心臓春の雨
行く春の高台にある配水池
千切りのキャベツを嚙んでいる団地
折り紙の続きのようにどくだみが
歯ブラシをくわえて昼の蛇のこと
プールから上がりネオンを浴びている
くらげ見て記憶をひとつ置き去りに
ひぐらしや上司と二人パイプ椅子
台風一過手で覆わずにするあくび
子規の忌のじっと見ているバーコード
無花果のウォーターベッド光差す
菊なますオンラインからオフライン
ドアノブの重さのあとの冬林檎
遠火事を多肉植物越しに見る
空洞に満ちるバリウム冬の蝶
枯野へと舌という肉突き出して
直線で描かれる猫野水仙

杉澤さやか「香の物」

澤好摩 推薦 第三席

土手広く十一月のもんじや焼き
一滴のラー油ひろごる寒さかな
風邪の身の芯に種火のあるやうな
水耕の根のよぢれあふ去年今年
冬ぬくし一樹を囲む木のベンチ
なめらかに鴨をよけつつ鴨いそぐ
花冷の二切れづつの香の物
うららかに茶葉対流へ乗りそむる
人形の緩きまなぶた春の雨
子かまきり吹かれ来てはや睥睨す
蓋失せしエアーバルブや夏の雲
をさな子のつむじすこやか蟻の列
節電の部屋のそこひの金魚かな  
まつ直ぐに餌しづみゆく涼しさよ
逝く夏を砂鉄集めてゐたりけり
熱の子の浅きねむりやほたる草
猫じやらし挿して風吹くワンルーム
水槽の底より濁る野分かな
虫の夜の喉元まろく紹興酒
スポンジの泡もみ起こす朝寒し

青木ともじ「湯を沸かす」

澤好摩 推薦 第二席

よく響く新居のチャイム木の芽和
桜へと急ぐ景色をかきわけて
城壁につづく日永の崖あらは
空箱を畳んで積んで苗木市
ピザ在りし箱の湿りや夏の月
保冷剤羅ごしに感じけり
わが沖を夜焚動かぬ不安かな
ボートからあをあを見えて知らない樹
水深の数字かすれしプールかな
秋天を組み換へてゆく観覧車
菊の日の一杯分の湯を沸かす
吾の来るを案山子を出して待つてをり
鍵穴の奥に固さや虫時雨
檸檬温室(リモナイア)夜も輝いて地中海
棘のある花だと知つてゐてあげる
夜廻へ茶殻を捨ててから向かふ
検温に曝すおでこや淑気満つ
毛布はや犬にとられてゐる父よ
佳き人を演じて細き葱を買ふ
まだ雪を知らぬ雪吊並びけり

池田宏睦「奥」

白泉賞(今泉康弘 推薦)

囀に戦争が承認される
ぼたん雪はじめて人を撃つ朝に
兵募る電子看板亀鳴けり
朧夜へ緊急発進(スクランブル)の機体発つ
空襲警報余寒の部屋に蹲る
空襲のきれいな動画春浅し
北窓を開くあちこちに黒煙
君子蘭の鉢が斃れてぐちよぐちよに
灰燼の音楽堂や鳥曇
配給の粉の珈琲春の闇
桜蕊降る六本木駅地下壕
蝶だつた無限軌道(キャタピラ)に轢かれるまでは
虐殺の後陽炎が立つてゐた
撤退す春野に骸のこしつつ
ばらばらの屍体を拾ふ朝ぐもり
卯の花腐し街に居坐る不発弾
右脚が切断される涼しさよ
夕虹を撃ち落とす角度に加農(カノン)
人を撃つ人を撃つ人夏の霧
無人機に特攻命令夏至の海

吉冨快斗「遮断機壊してまわる」

白桃賞 (山田耕司 推薦)

遮断機壊してまわるきみに緑の痣をやる
舌切られてもボンデージ平仮名なら甘い
口でレースの下着剥ぐとき放銃の記憶が
培養肉食べるきみに来る初夜何度何度も
目蓋の裏に揃いの刺青を彫る夢見て寝る
熱病の児すぐ手袋へ変わる未分化の秋よ
火焔瓶に性交渉交渉人の実印詰め投げる
河消えもしよもしよと蛋白質咥える母子
フロー図を書きながら真赤な日思い出す
朝寝坊暴動は明後日に伸ばしてまた布団
睫毛食べあうそのたびに禁煙しています
カヌレがたまに固くて柔らかいスポンジ
星間無線きみ真白い声で反革命を口遊む
きみは別だけど損切りばかりするおれ犬
上着に豆乳溢しても念のため粋がる事後
きみ嫌ってた一般性高い幕張で寝具買う
形が無いと知れば尖らず丸まらず大人か
欲だけ追ってみるか!みたいな青年あり
金に目がない死にたくない詩人然として
小さなゴミ袋使い始めてからなんだか春

第七回 円錐新鋭作品賞

花車賞(澤好摩推薦)

土屋幸代「泥に立つ」      読む

白桃賞(山田耕司推薦)

吉冨快斗「遮断機壊してまわる」 読む

白泉賞(今泉康弘推薦)

池田宏睦「奥」         読む

推薦作品(一句推薦)    読む

澤好摩  第二席  青木ともじ「湯を沸かす」 読む

澤好摩  第三席  杉澤さやか「香の物」   読む

山田耕司 第二席  藤田俊「口腔」      読む

山田耕司 第三席  あさふろ「点滅」     読む

今泉康弘 第二席  細村星一郎「喝采」    読む

今泉康弘 第三席  とみた環「まぼろせる」  読む

       ・・・

澤好摩  選評 想像力とその波及効果  読む

山田耕司 選評 みずからを縛る自由を  読む

今泉康弘 選評 季節の地獄       読む

       ・・・

第七回円錐新鋭作品賞 編集部より    読む

97号 発行が遅れています

第七回円錐新鋭作品賞 結果発表を掲載した97号

予定では4月末日に出版される予定でしたが

発行が遅れています。

5月13日にまでには発行される予定です。

楽しみに待っていてくださった皆さまにご心配をおかけして申しわけありません。

いましばし、お待ちくださいますよう。

円錐編集部 編集人 山田耕司

第七回円錐新鋭作品賞募集要項

*未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。

*作品にはタイトルをつけてください。

*受付開始 2023年1月15日

*締め切り 2023年2月15日

*年齢・俳句歴の制限はありません。

*受賞作品は「円錐」97号(2023年4月末日刊行予定)に掲載いたします。

ご応募の際には、お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの
連絡先をお書き添えください。折り返し、編集部より連絡申し上げます。