杉澤さやか「香の物」

澤好摩 推薦 第三席

土手広く十一月のもんじや焼き
一滴のラー油ひろごる寒さかな
風邪の身の芯に種火のあるやうな
水耕の根のよぢれあふ去年今年
冬ぬくし一樹を囲む木のベンチ
なめらかに鴨をよけつつ鴨いそぐ
花冷の二切れづつの香の物
うららかに茶葉対流へ乗りそむる
人形の緩きまなぶた春の雨
子かまきり吹かれ来てはや睥睨す
蓋失せしエアーバルブや夏の雲
をさな子のつむじすこやか蟻の列
節電の部屋のそこひの金魚かな  
まつ直ぐに餌しづみゆく涼しさよ
逝く夏を砂鉄集めてゐたりけり
熱の子の浅きねむりやほたる草
猫じやらし挿して風吹くワンルーム
水槽の底より濁る野分かな
虫の夜の喉元まろく紹興酒
スポンジの泡もみ起こす朝寒し