青木ともじ「湯を沸かす」

澤好摩 推薦 第二席

よく響く新居のチャイム木の芽和
桜へと急ぐ景色をかきわけて
城壁につづく日永の崖あらは
空箱を畳んで積んで苗木市
ピザ在りし箱の湿りや夏の月
保冷剤羅ごしに感じけり
わが沖を夜焚動かぬ不安かな
ボートからあをあを見えて知らない樹
水深の数字かすれしプールかな
秋天を組み換へてゆく観覧車
菊の日の一杯分の湯を沸かす
吾の来るを案山子を出して待つてをり
鍵穴の奥に固さや虫時雨
檸檬温室(リモナイア)夜も輝いて地中海
棘のある花だと知つてゐてあげる
夜廻へ茶殻を捨ててから向かふ
検温に曝すおでこや淑気満つ
毛布はや犬にとられてゐる父よ
佳き人を演じて細き葱を買ふ
まだ雪を知らぬ雪吊並びけり