藤田俊「口腔」

山田耕司 推薦 第二席

チーズの名挙げて朝寝へもどりけり
朧夜の魚肉ソーセージの金具
亀鳴いて辞令を渡す・渡される
嚙んでいる鶏の心臓春の雨
行く春の高台にある配水池
千切りのキャベツを嚙んでいる団地
折り紙の続きのようにどくだみが
歯ブラシをくわえて昼の蛇のこと
プールから上がりネオンを浴びている
くらげ見て記憶をひとつ置き去りに
ひぐらしや上司と二人パイプ椅子
台風一過手で覆わずにするあくび
子規の忌のじっと見ているバーコード
無花果のウォーターベッド光差す
菊なますオンラインからオフライン
ドアノブの重さのあとの冬林檎
遠火事を多肉植物越しに見る
空洞に満ちるバリウム冬の蝶
枯野へと舌という肉突き出して
直線で描かれる猫野水仙