第五回推薦作品

澤好摩 推薦

埋め立ての町に浜の名みやこ鳥    中村たま実   
抜錨の濁りをとほく春の雪       内野義悠
らしからぬことをしてゐる雛祭    霜田あゆ美 
ふいに来るその日はいつか凧      植田井草
夏未明そっとバールのようなもの    うっかり

山田耕司 推薦

缶詰にぐずる水音秋深し    クズウジュンイチ
ピンボール突き撃つコルク終戦日     佐藤修 
にはたづみ鼠花火を往なしたり    舘野まひろ
進むからこぐのをやめて晩夏光     田中木江     
かけっこの脚うずまきで描く木の芽時 細村星一郎

今泉康弘 推薦

窓開けて春をお部屋に案内す      大野美波
パーカーの手とか林檎を入れる部分   田中木江  
脳に打つ成人の日のチップかな    高林やもり
カトレアやうつくしいはらわたばかり  佐々木紺      
ぎろちんの安全装置胡瓜揉      中町とおと

白泉賞 摂氏華氏 「王の行方」

落椿宙にとどまる殺戮史
わたつみや大本営の春燈
仲たがひしてゐる三色菫かな
すめらぎの股肱となりし揚雲雀
葉桜に揉まれてゐたる御真影
神統譜偽書を曝書のさきがけに
盤上の王の行方や敗戦日
冷麦や玉音盤のよく回る
鈴虫や闇に継ぎ目のありにけり
手をふれてゆく白萩に隙間かな
モザイクをかけても桐一葉とわかる
花八手教育勅語に朕の文字
枇杷の花入江は紺を流したる
太郎冠者くさめしてゐる鳥屋かな
玉に乗る象のこころや冬銀河
黄の密を荘厳したる柚子湯かな
コロナウイルス何を喰ふらむ初御空
百万回再生したるマスクかな
鯛焼きの餡を拳でたたき出す
雪片は雪片を消しながら降る

白桃賞 原麻理子 「距離」  

冷めてすぐしぼむケーキや春の風
こでまりの花すれ違ふときの距離
カーネーション人々の呼気混ざり合ふ
通話がしたい葉桜いつせいに窓を
まだ梅雨ぢやない雨ここにゐない人
紫陽花の葉のごはごはと布巾煮る
あの蟬と思ふをととひ見た羽化の
見せていい服日盛りの戸が開いて
窓のある封筒メロンの熟れてをり
ゆふがたや水といつしよに買ふ花火
朝顔の閉ぢて脚立の横だふし
親しさや桃の入つてゐたくぼみ
マグカップ洗つて帰る良夜かな
月しばらく見上げて入る広い部屋
初雪や肉屋に金のステッカー
十二月高速道路の幅の川
クリスマス重ねて仕舞ふ軽い椅子
雪にフードの人の向かふへ薄くなる
梅のもう咲く目が合へば会釈する
花を見てゐる牛乳を買ひに出て

花車賞 森瑞穂「吊革の穴」

シャンプーの泡のふくらむ余寒かな
水になるとき匂ひたるうすごほり
疾走を待つたてがみや風光る
茹で残るパスタの芯や花の昼
名刺入れふくらんでゐる四月かな
朝寝して遠き汽笛を聞いてをり
ブラウスの釦真白く夏に入る
太宰のみならぬ心中夏の雨
短夜や頁に栞紐の跡
吊革の穴より見ゆる夏の海
髪切つて秋風すこし軽くなる
団栗を拾つて海に遠き町
秋晴の校舎の窓の広さかな
三面鏡夜は閉ぢられて冬に入る
しぐるるや手紙にかすかなる湿り
冬青空尻につめたき滑り台
愛は告げざるマフラーに顎深く
セーターを脱いで背骨の残りたる
駆け上がる駅の階段クリスマス
雪と言ふ横顔見つめられてをり

第五回 円錐新鋭作品賞募集!


それは、俳句。これも、俳句。

受付開始 2021年1月15日 応募締切 2021年2月15日

審査  澤好摩・山田耕司・今泉康弘

応募用アドレス ensuihaiku@gmail.com

お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの
連絡先をお書き添えください。編集部より連絡申し上げます。

未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。*作品にはタイトルをつけてください。*締め切り2021年2月15日*年齢・俳句歴の制限はありません。*受賞作品は「円錐」89号(2010年4月末日刊行予定)に掲載いたします。■

第四回円錐新鋭作品賞


花車賞(澤好摩 推薦)

「夜の学校に手紙を置いてきた」 来栖啓斗      →読む


白桃賞(山田耕司 推薦)

「適当」 千野千佳                    →読む


白泉賞(今泉康弘 推薦)

「窓がひとつだけあいてゐて」 たかなしあきら     →読む


推薦句                      読む


選考対談                      読む


俳句同人誌「円錐」第 85号誌上にて発表(2020年4月30日発行)

花車賞 来栖啓斗「夜の学校に手紙を置いてきた」

花車賞(澤好摩 推薦) 第四回 円錐新鋭作品賞

春めいてもう永遠の子どもたち 

谷底の残雪やがて逢うために

みずうみに銃身浸す夜の秋

ひとの子も鹿の子もみんな気づかない

夏草や舌打ちすれば良いものを

鳴かぬ蝉から標本にしてあげよう

百合揺れて画布より零ゆる天使の死

すれ違う白夜とウスバカゲロウと

はつなつの白馬が駆けるはずだった

みなみかぜ微かに付着する痛み

永き日の生きていること思い出す

夏の宵いつも優しい機械かな

赦されて撃たれてみたき晩夏かな

満月の漂っている死後の恋

冬菫どこまで行ける夢だろう

寒き日や白黒写真に火をつける

寒林に漂う生きて死んでいく

触れられて私を失くす枯野道

雪が降る世界の終わりまで遊ぶ

世界凍つ生と死をみな後にして

白桃賞 千野千佳「適当」

白桃賞(山田耕司 推薦) 第四回 円錐新鋭作品賞

風光る底のきれいなモノレール

鳥かごのほうれん草の濡れてをり

噴水の跡地にたてる指揮者かな

アイスコーヒー履歴書の端ぬれてをり

五歳ほどの人形をどる木下闇

あめだまを舐めつつシャワー浴びてをり

長梅雨や視力検査のしつこくて

法廷の小窓をのぞく日焼顔

猫にゑさしぼりだしたる盛夏かな

クーラーや適当にかくアンケート

ステージの両端にゐる水着かな

冷房の風に不安をそそられり

壺の湯の順番待ちの裸かな

走りつつ交尾の牛や露の秋

蚯蚓鳴く戦争ものの古本屋

さはやかやスワンボートのなかは船

男性はこぶしをひざに秋の暮

サンタのシール貼られて中華弁当よ

しはぶけばのどの奥より海かをる

門松やうどんにつける小ビール