第二回 円錐新鋭作品賞 推薦句

澤好摩 推薦

メフィストの眼の色知るや初嵐   坂本 睡

蝿生まる薬の味のするくすり   山本 計

穴惑ひ駅はいつでも工事中   石原百合子


山田耕司 推薦

捩じ切れる麒麟の首のごと野分   柊 月子

大寒のボタン押さねば降りられず   三丸祥子

父欠けて母とレモンと海老フライ  浦邉はづき


樋口由紀子 推薦

囀りや硯の水は水のまま   藤田 俊

春永や異国で佐藤と名付けられ    桜 電子

風をあざなふ夏蝶のつけ根かな    牟礼 鯨


花車賞 「境界線」 石原百合子

花車賞(澤好摩 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


大木の臍の高さに巣箱かな

春愁の四肢の重さに五臓耐ゆ

海山に遠く暮らして花見酒

少女とは自他に残酷白牡丹

缶ビール美学を持たぬ美学あり

サングラス越しに東京見る女

ナイターの観客席に境界線

ビル街に飴のごとくに大西日

蜩や人には看取りてふ仕事

いづこにも貴種流離譚秋の虹

穴惑ひ駅はいつでも工事中

神といふ言葉の軽き世の月夜

一呼吸して絵襖の部屋に入る

冬の山けもの道より暮れゆけり

昼の街夜の街みなクリスマス

星宿図変へそうなほど大嚏

吉凶の出ぬ初夢でありにけり

読初の物語また誰か死ぬ

白梅をちやんと見たくて眼鏡拭く

シェフよりもコックが似合ふ店も春

白桃賞 「秋と幾何学」 高梨章

白桃賞(山田耕司 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


秋風や水の温度でふれてくる

線をひく秋の海からまつすぐに

物音のあと空いてゐる秋の夜

空いてゐて月のかたちのあるばかり

じゆず玉がひとつだけ箱のなかの夜

五階にも秋は来てゐる紙の皿

ポケツトのほこりのなかの零余子かな

掃きながら金木犀の陰日なた

コスモスのからだの中のゆれる線

月光は耳の底まで下りてくる

雁一羽空に浮かべて母ねむる

かたちなきものへとかへる秋の雲

月冴ゆる母から砂のこぼれおつ

かりそめの世のかりそめの母に秋

水みちて秋の手紙の白さかな

秋高し地球の外を飛ぶじかん

川音も月のひかりに見えてくる

秋の線円錐形の火山島

行く秋の小鳥の数がおりてくる

やがて夜となるりんごの内部かな

夢前賞 「竹ノ塚心中」 大塚 凱

夢前賞(樋口由紀子 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


似た夜やおでんの隅に塵の浮く

枯蔓を少し引いてもわからない

肉球の凍ててトタンを渡る音

都営団地バケツみどりに水凍てる

湯気立てや豆苗おのづから育ち

セーター薄くつばめの来ない部屋に棲む

春めきの穴があつたら覗く癖

卒業の肩凝つてゆく向後かな

ひだまりや田中に生まれなかつた僕ら

ぶらんこの傍のひなたをもて余す

知つてゐるはずの坂道だがかげろふ

ぺんぺん草団地が建つてからくらがり

死後あたたか郵便受けをあふれる紙

てさぐりの躑躅の方へ吐きにゆく

寝て夏を塩酸つくるからだかな

あぢさゐへうつむいてゐるいろんな母

あかるみに水鉄砲の水腐る

ぎらぎらと孑孒煮える一斗缶

黙々と塔のかたむく蟻の上

蠍座や公園ぬるくつるみあふ

第一回 円錐新鋭作品賞 

第一回 円錐新鋭作品賞


 花車賞(澤好摩 推薦)

「目線は高く」 谷崎佳奈美                →読む


白桃賞(山田耕司 推薦)

「総国(ふさのくに)」 佐藤文香             →読む


うずまき賞(高柳蕗子 推薦)

「プレイステーションの起動音」 井口可奈         →読む


 

 

推薦句                          →読む


俳句同人誌「円錐」第73号誌上にて発表(2017年4月30日発行)

第一回 円錐新鋭作品賞 推薦句


澤好摩 推薦

霾やゴール運ぶに総出して   大川原弘樹

鳥の巣に鳥をらぬ日日はじまりぬ   山田露結


山田耕司 推薦

同性の抱擁つづく涅槃西風   夏木久

どけじゃまはる血ん血んしねつーとるな   早計層


高柳蕗子 推薦

凩やささくれむけば若い肉   伊東光穂

かりんとう袋パンパン盂蘭盆会   シシオ澤ガイ


白桃賞 「総国(ふさのくに)」 佐藤文香

白桃賞(山田耕司 推薦)第一回 円錐新鋭作品賞


ゆまりしてあかざは指に挟む花

幾山河透かして蟬の羽乾く

石英の太き尖りも夏のもの

坤王林の麵麭焼きにけり

あさがほのたゝみ皺はも潦

絵蠟燭件の人の来て帰る

月かげのもつれて淡し雁擬

海原の微塵に冬の来るなり

木に枯れて葉の手ざはりの日と思ふ

日輪に縮むうつゝや初筑波

羊日や干瓢ほどき昆布ひらく

手庇の手がよく見えて葱畑

まんぢゆうや水戸街道を休みつゝ

手賀沼の光とほのく卍かな

姫君や貌鳥に喩を教へこむ

白梅にうすき眉根のまじなひ師

春風や手鏡ごとの鼻の穴

あをぞらをあなくきやかにやまひだれ

石楠花よ光溜りの目のやり場

つちくれを流るゝ水や手に手旗