白桃賞 「青い万年筆の家」西生ゆかり

白桃賞(山田耕司 推薦) 第三回 円錐新鋭作品賞


一月を通る模様の無い電車

ドトールをはみ出してゐる福袋

寒鯉を見に行く簡単な靴で

タピオカの浮くや沈むや姫始め

水仙や無言電話に息少し

冬帽の揺れの激しい方が親

消火器は三文字冬の書道展

夕時雨青い万年筆の家

くしやみしてうつかり岸へ来てしまふ

遮断機はいつか壊れる冬の水

短日を水煙草屋で適当に

ゆるゆるのオムレツ日本橋に雪

雛壇の前の二重の自動ドア

紙の雪走れば近いスリランカ

春昼や輪廻の如き寿司レーン

嫋々と雨菜の花の辛子和へ

三月や手錠の色の台所

店頭の帽子の歪み鳥交る

チョコバナナも仏も春の雨の中

たんぽぽや地球征服したら暇

 

花車賞 「シエフを呼ぶ」神山刻

花車賞(澤好摩 推薦) 第三回 円錐新鋭作品賞


猫の恋ベシヤメルソース色の月

はまぐりをせり出す舌の可動域

溶けぬバター溶けたバターに浮いて春

啓蟄のエクレアがある野菜室

しやぼん玉そのままの手でツナサンド

ワインリスト窓に書かれて春の雲

鳥が帰るとリゾツトが運ばれてくる

タバスコの蓋は八角目借時

春光を巻ききつてゐるパスタかな

はつなつの肉厚の肉厚く切る

飴色玉葱ナイフにフオークに抗つて

水流のつよさ苺を洗ふとき

吸盤が蛸焼といふものの芯

シエフを呼ぶゐもしない蚊をうつやうに

英雄その膝に少年ラフランス

マスカツトとサラダボウルの接地面

砂糖菓子のサンタの脚のあひだかな

笹鳴の朝の水溶き片栗粉

久女忌のカレーうどんが腸をゆく

スープです鮫がしづんでゐるだけの

第二回 円錐新鋭作品賞

第二回 円錐新鋭作品賞


 花車賞(澤好摩 推薦)

「境界線」 石原百合子                  →読む


白桃賞(山田耕司 推薦)

「秋と幾何学」 高梨 章                             →読む


夢前賞(樋口由紀子 推薦)

「竹ノ塚心中」 大塚 凱                    →読む


 

 

推薦句                          →読む


俳句同人誌「円錐」第77号誌上にて発表(2018年4月30日発行)

第二回 円錐新鋭作品賞 推薦句

澤好摩 推薦

メフィストの眼の色知るや初嵐   坂本 睡

蝿生まる薬の味のするくすり   山本 計

穴惑ひ駅はいつでも工事中   石原百合子


山田耕司 推薦

捩じ切れる麒麟の首のごと野分   柊 月子

大寒のボタン押さねば降りられず   三丸祥子

父欠けて母とレモンと海老フライ  浦邉はづき


樋口由紀子 推薦

囀りや硯の水は水のまま   藤田 俊

春永や異国で佐藤と名付けられ    桜 電子

風をあざなふ夏蝶のつけ根かな    牟礼 鯨


花車賞 「境界線」 石原百合子

花車賞(澤好摩 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


大木の臍の高さに巣箱かな

春愁の四肢の重さに五臓耐ゆ

海山に遠く暮らして花見酒

少女とは自他に残酷白牡丹

缶ビール美学を持たぬ美学あり

サングラス越しに東京見る女

ナイターの観客席に境界線

ビル街に飴のごとくに大西日

蜩や人には看取りてふ仕事

いづこにも貴種流離譚秋の虹

穴惑ひ駅はいつでも工事中

神といふ言葉の軽き世の月夜

一呼吸して絵襖の部屋に入る

冬の山けもの道より暮れゆけり

昼の街夜の街みなクリスマス

星宿図変へそうなほど大嚏

吉凶の出ぬ初夢でありにけり

読初の物語また誰か死ぬ

白梅をちやんと見たくて眼鏡拭く

シェフよりもコックが似合ふ店も春

白桃賞 「秋と幾何学」 高梨章

白桃賞(山田耕司 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


秋風や水の温度でふれてくる

線をひく秋の海からまつすぐに

物音のあと空いてゐる秋の夜

空いてゐて月のかたちのあるばかり

じゆず玉がひとつだけ箱のなかの夜

五階にも秋は来てゐる紙の皿

ポケツトのほこりのなかの零余子かな

掃きながら金木犀の陰日なた

コスモスのからだの中のゆれる線

月光は耳の底まで下りてくる

雁一羽空に浮かべて母ねむる

かたちなきものへとかへる秋の雲

月冴ゆる母から砂のこぼれおつ

かりそめの世のかりそめの母に秋

水みちて秋の手紙の白さかな

秋高し地球の外を飛ぶじかん

川音も月のひかりに見えてくる

秋の線円錐形の火山島

行く秋の小鳥の数がおりてくる

やがて夜となるりんごの内部かな

夢前賞 「竹ノ塚心中」 大塚 凱

夢前賞(樋口由紀子 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


似た夜やおでんの隅に塵の浮く

枯蔓を少し引いてもわからない

肉球の凍ててトタンを渡る音

都営団地バケツみどりに水凍てる

湯気立てや豆苗おのづから育ち

セーター薄くつばめの来ない部屋に棲む

春めきの穴があつたら覗く癖

卒業の肩凝つてゆく向後かな

ひだまりや田中に生まれなかつた僕ら

ぶらんこの傍のひなたをもて余す

知つてゐるはずの坂道だがかげろふ

ぺんぺん草団地が建つてからくらがり

死後あたたか郵便受けをあふれる紙

てさぐりの躑躅の方へ吐きにゆく

寝て夏を塩酸つくるからだかな

あぢさゐへうつむいてゐるいろんな母

あかるみに水鉄砲の水腐る

ぎらぎらと孑孒煮える一斗缶

黙々と塔のかたむく蟻の上

蠍座や公園ぬるくつるみあふ