花車賞 「境界線」 石原百合子

花車賞(澤好摩 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


大木の臍の高さに巣箱かな

春愁の四肢の重さに五臓耐ゆ

海山に遠く暮らして花見酒

少女とは自他に残酷白牡丹

缶ビール美学を持たぬ美学あり

サングラス越しに東京見る女

ナイターの観客席に境界線

ビル街に飴のごとくに大西日

蜩や人には看取りてふ仕事

いづこにも貴種流離譚秋の虹

穴惑ひ駅はいつでも工事中

神といふ言葉の軽き世の月夜

一呼吸して絵襖の部屋に入る

冬の山けもの道より暮れゆけり

昼の街夜の街みなクリスマス

星宿図変へそうなほど大嚏

吉凶の出ぬ初夢でありにけり

読初の物語また誰か死ぬ

白梅をちやんと見たくて眼鏡拭く

シェフよりもコックが似合ふ店も春