白桃賞 「秋と幾何学」 高梨章

白桃賞(山田耕司 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


秋風や水の温度でふれてくる

線をひく秋の海からまつすぐに

物音のあと空いてゐる秋の夜

空いてゐて月のかたちのあるばかり

じゆず玉がひとつだけ箱のなかの夜

五階にも秋は来てゐる紙の皿

ポケツトのほこりのなかの零余子かな

掃きながら金木犀の陰日なた

コスモスのからだの中のゆれる線

月光は耳の底まで下りてくる

雁一羽空に浮かべて母ねむる

かたちなきものへとかへる秋の雲

月冴ゆる母から砂のこぼれおつ

かりそめの世のかりそめの母に秋

水みちて秋の手紙の白さかな

秋高し地球の外を飛ぶじかん

川音も月のひかりに見えてくる

秋の線円錐形の火山島

行く秋の小鳥の数がおりてくる

やがて夜となるりんごの内部かな