三宅やよい『鷹女への旅』

三宅やよい氏による三橋鷹女評伝。
丁寧に生涯と作品とを追いながら、三橋鷹女の魅力を紹介する一冊。
ISBN978-4-86037-245-3

練り上げ、やうやくにして練り固めた鈍銀色のこの薬を、私はもう間もなく、誰もゐない処で、こっそり嚥み下さうとしてゐる。。私だけが飲む薬、私だけに効く薬! かうした念願をかけて創りあげたものではあるけれど、飲み下した後で、果たしてどれだけの効果をあげることが出来るだらうか
三橋鷹女 『羊歯地獄』あとがきより

 作品を自らのためだけに書きあらわすということは、社会的な評価などは振り返ることなく、批評の座標を独自に立たしめるということでもある。その行為においてこそ、三橋鷹女の「現代性」は裏付けられると言ってよい。女性として自らの個性を明確に示した下記のような作品が知られるところではあるが、その奥にある作家としての志向を、人生に即しつつまとめ上げた本書は、三橋鷹女ファン必携の一冊であるのみならず、現代において表現活動をすることとは何かを考えさせる手引書のような働きをも示しているように思う。

ひるがほに電流かよひゐはせぬか
みんな夢雪割草が咲いたのね
夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり
つはぶきはだんまりの花嫌ひな花
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
白露や死んでゆく日も帯締めて
鞦韆は漕ぐべし愛は奪うべし
暖炉昏し壺の椿を投げ入れよ
狂ひても女 茅花を髪に挿し
白露や死んでゆく日も帯締めて
秋風や水より淡き魚のひれ
笹鳴に逢ひたき人のあるにはある
老いながらつばきとなつて踊りけり