聖火想望 ー2021年 夏至の夜にー 山田耕司
砲撃てり見えざるものを木々を撃つ 三橋敏雄 『弾道』
聖火来てふ紙片出でたり背後より
火を待てり諸人この世の道にらみ
竝びては小旗の紙を鳴らし立つ
なにごとか叫ぶらしきは炬火来たる
聖火来たり人を携へ道を来たり
衆人のマスクの白を聖火過ぐ
白い昼へ炬火の白きを振り上ぐる
炬火の消ゆ入場口の暗きへ消ゆ
火を待てり学徒を待てり競技場
火を待てり竿に風なき旗を垂らし
巨大なる火巨大なるうつろに湧く
巨大なる火の東京の手暗がり
火を仰ぐ人人柱人柱
群鳩ぞ人語を離れ火を離れ
五輪旗ぞ地に人体と火とを据ゑ
火の庭の尿意の列の動かざる
画面音なく火のあらはれて火を焼けり
聖火焼けり見えざるものを天を焼けり
返り見る聖火小さしわれ小さし
人列の地下へ地下へと火の夜の