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黙りなさい

鶴飼はれどなたさまであれ着衣
長考の白さの蛇よ穴を出て
とことはに踏む霜柱押す呼び鈴
万里霞み口中霞む独りかな
白梅よ散りなさい廃船よ黙りなさい
生クリイムをいぢめてをるのだ山笑へ
九九唱ふ晩霞の檻のこちら側
去る魚のまだそこにゐる寒さかな
胎児にもまつ毛ありとや草に雪
涅槃西風ゆりかごには片脚しか入らず
春暑しその牛はどの牛だつたつけ
等高線すなはち曲線彌生雨
春の日や壺はうつろに耳ふたつ
椿咲きやまず手綱に馬は無く
末黒野や知らない家族また出てくる

「円錐」第73号(2017年4月30日発行)掲載


  どこへやら

春塵を五体こぼさぬやう来しが

土筆摘むそれぞれちがふ鍵を持ち

吽形のまま落つもあり花椿

啓蟄や目薬さすに口を開け

くちびるのある者つどひ潮干狩

臍の緒は今どこへやら大根抜く

おぼろなる海に落日鼻に穴

古い家に住んでいる。明治初期の建造。東日本大震災で全体が傾く。床下と屋根の全てを修復、外装工事は来年に予定。何もしなければ朽ちてゆく。何かをすれば必ず変化してしまう。古いものとのつきあいは、難しく、面白い。

「俳句」 平成29年3月号


にんげんの手を摑んだる砂遊び

名月や背をなぞりゆく人の鼻

ひとさまに剃らるる顔や雲の峰

焚き火より手が出てをりぬ火に戻す

口から出す要らない骨よ秋彼岸

「俳句あるふぁ」平成29年4-5月号