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ボタンA

夏暗く持たされてゐる縄の端
墓から墓へ昼顔の及ばんと
川岸に兄冥府へと鬼ヤンマ
頭重たき花は売られて五月晴
三伏や甲冑座す箱の空ラ
古池や押すに茶の出るボタンA
夏雲やこなたに枠ある柩窓
六月やしたたる筆の重たさに
地球儀の極はネジ留め茅舎の忌
炎暑酷酷よろけて触るる言問橋
旅の日のゆるされて刈る庭葎
西瓜に顔彫つて眞闇へ向けにけり
佛體は女人のごとし大花火
百聞の虹に男女や立ちしよんべん
中村裕氏の訃に接し
開く手に石温しまだ温しとぞ

「円錐」第74号(2017年8月10日発行)掲載


どれにも棒

袖に口あり春の野に雲雀あり
抱きあげてふと揺らすなり春の石
末黒野や時報でわかつ午前午後
そこで卵にさつとくぐらせ涅槃西風
春泥に水かきのない手を戻す
春ゆくや乳房をしまふ手さばきに
ふたを得て湯気はにぎやか鳥帰る
貝がらで掘るがつめたき春の墓
うぐひすやまぶた塗るとき片目開け
春さびしべつかう飴のどれにも棒
絶頂に来たり毛虫のまま戻る
砂山に名はなし砂の春のくれ
ぼんやりと翅を想うて潮干狩
まる腰は螢のせゐにしておかむ
端居せりあをむらさきのお湯を出て
釋迦力のあやとりに蝶そして塔

「俳句四季」七月号掲載


黙りなさい

鶴飼はれどなたさまであれ着衣
長考の白さの蛇よ穴を出て
とことはに踏む霜柱押す呼び鈴
万里霞み口中霞む独りかな
白梅よ散りなさい廃船よ黙りなさい
生クリイムをいぢめてをるのだ山笑へ
九九唱ふ晩霞の檻のこちら側
去る魚のまだそこにゐる寒さかな
胎児にもまつ毛ありとや草に雪
涅槃西風ゆりかごには片脚しか入らず
春暑しその牛はどの牛だつたつけ
等高線すなはち曲線彌生雨
春の日や壺はうつろに耳ふたつ
椿咲きやまず手綱に馬は無く
末黒野や知らない家族また出てくる

「円錐」第73号(2017年4月30日発行)掲載


どこへやら

春塵を五体こぼさぬやう来しが

土筆摘むそれぞれちがふ鍵を持ち

吽形のまま落つもあり花椿

啓蟄や目薬さすに口を開け

くちびるのある者つどひ潮干狩

臍の緒は今どこへやら大根抜く

おぼろなる海に落日鼻に穴

古い家に住んでいる。明治初期の建造。東日本大震災で全体が傾く。床下と屋根の全てを修復、外装工事は来年に予定。何もしなければ朽ちてゆく。何かをすれば必ず変化してしまう。古いものとのつきあいは、難しく、面白い。

「俳句」 平成29年3月号


にんげんの手を摑んだる砂遊び

名月や背をなぞりゆく人の鼻

ひとさまに剃らるる顔や雲の峰

焚き火より手が出てをりぬ火に戻す

口から出す要らない骨よ秋彼岸

「俳句あるふぁ」平成29年4-5月号

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