金子敦 句集『音符』

金子敦 第五句集

小さな生き物やお菓子などのかわいらしいものを対象にやわらかな感性を示す、その安定感が一冊を貫く。
季語を用い、言葉でひとつずつポストカードを製作するような姿勢。そこには、作者自身の個人的な主張を読者に注入しようとするような「わたくし語り」めく重たさは見つけにくい。俳句とは、「わたくしを語らないようにはかる」文芸であるとするならば、その穏やかで和やかな実例を本書にはいくつも見出すことになるだろう。

春惜しむ画鋲を深く刺し直し
菜箸は糸で繋がり星祭
つぶあん派こしあん派ゐて月を待つ
ものの芽や身長計にきりんの絵
錠剤に割り線ありぬ走り梅雨
夜の秋や机に明日出す手紙
人日やバックしますと言ふ車
母の日の象のかたちの如雨露かな
折紙の裏は真つ白昼寝覚
それぞれの個室に戻る朧かな
コカコーラ色の仏像鳥渡る
水底に金魚の餌の辿り着く
二階より「いま行く」のこゑ星祭

金子敦 『音符』