中矢温「はい」

今泉康弘 推薦第三席

信号が長くて鳩を見てしまふ
見て仕舞ふ液晶割れてゐていつも
ゐていつも欲しいアボカドでも足りる
でも足りるなら呼ばなくて二人きり
二人きりがじと歯形をストローに
ストローに唇運ぶ映画館
映画館から見えつぱなしの居酒屋の
居酒屋のハンガー譲りあうて勝つ
会うて勝つだけ指相撲君からの
君からのリンク長くてよいサイト
よい犀と世界の国旗覚えたし
覚え足しナンプラーか料理運ばれ
料理運ばれ端に押しやる旧手帳
古手帳たしか落としてダム近く
ダム近く化けて私と犬は鴨
犬は鴨見たまま散歩まつすぐに
まつすぐにまつくら吹かすマフラーを
マフラーを巻いて荷物を軽くする
軽くするつもりで短すぎる髪
過ぎる神さまのアンテナ信号が

夜行「飼ひならす」

今泉康弘 推薦第二席

沈みゆく重油いそぎんちやくは花
放課後のぶらんこにしたがつてゐる
啓蟄の肉がケバブとしてまはる
山笑ふ心理テストの何問目
エイプリルフール毛抜きの可動域
さかさまはどつちくらげとわたくしと
噴水やピエロのボール二つ三つ
あまやかに黴あり祖父の蔵書印
近づいてここからは滝だと思ふ
蚯蚓のたうつて癖字のごときなり
八月や島いつぱいに雲の影
牛の胃を磁石のすべる残暑かな
赤血球ぽこんと生まれ今日の月
憂鬱なテーブル林檎置いてより
めそめそと銀木犀の匂ふ夜
太陽はからつぽ鯨ねむりをり
四階にピラルクとゐて遠き火事
枯蔦の支へるビルでありにけり
寒波来てかかしのあつた穴のいろ
雪だるまに足は与へず飼ひならす

五十嵐一真「真昼の手帳」

山田耕司 推薦第三席

趣味があることがやましい新社員
春の風邪昼のテレビに暮らしあり
ヒヤシンスためらひ傷のすぐ治る
蜃気楼無言でできる指遊び
亀が鳴くときの気持ちをおしはかる
アイスティー昼の句作に飽きてきて
パラソルを広げて海に帰ります
好きだつたビデオテープがカビてゐる
蚊を打つていまほど打つた蚊のはなし
前を行く人から盗む踊り方
また別の胡桃を剥いてまた口に
手に菊や喪服の中はくたびれる
眠くなる家具屋のはなし小鳥来る
ザッピング相撲が早く終はればな
コスモスや諦めきつた患者たち
小春日のうずら崩さぬやうに抱く
外に出てスキー客にはよい笑顔
雪催遊具貧しくなりにけり
冬埃バブルの頃の変な本
跳び箱に獏の臭ひや去年今年

綱長井ハツオ「ズキズキ、キリキリ、ムカムカ」

山田耕司 推薦第二席

汗臭く重く悪夢ばかりの蒲団
唇の剥がれて白し神渡し
蟷螂枯れて血でも水でもなき臓腑
椅子の螺子ゆるし勤労感謝の日
山茶花やこむら返りに似た怒り
歩くより早く時雨の去りにけり
冬凪や鴉の羽根がとんと浮く
鋭さを増して枯木の枝千本
霙るるやコンビニの自己啓発書
バファリンの裏側平ら虎落笛
宮線を添えて程よく固き痰
クリスマス身体のどれほどが空洞
手袋で覆う手首の脈までを
雪掻す腕は骨より太きもの
海側の者から暮れてうつた姫
冬暮光マリモほこんと弾みけり
牡蠣フライ食いぬ牡蠣見ることもなく
食道は肺のすぐそば滑子汁
キスシーン長しストーブまだ臭し
師走師走フッと冷たくなるシャワー

内野義悠「抜錨」

澤好摩 推薦第三席

抜錨の濁りをとほく春の雪
胎名を授けてよりの水温む
花朧秘めごとは寝言に漏るる
スヌーズを繰り返しかげろふの中
はうれんさう湯掻き泳がしてゐる嘘
春の雨筋膜ほわと剥がれゆく
鳥雲に始まつてゐる倦怠期
初夏や原色のバブ浮かびくる
みどりの夜言葉ひたひた交はし合ふ
編集に増ゆる笑声せんぷうき
氷菓染みたりママ友に派閥あり
大夕立去り総身の血の軽く
二百十日小刻みな上書き保存
飛ばせない動画広告小鳥くる
檸檬搾りてぱつちりとドライアイ
間に合つてしまふ女子会ピーナッツ
プラレール脱線したる小春かな
鯛焼を分け合ひ赦してはをらず
逸らす眼や雪兎また固く締む
人住まぬ住所あふるる都市に雪

中村たま実「ふうせん」

澤好摩 推薦第二席

スカートの襞の正しき四月かな
琺瑯の由美かおる笑む種物屋
あの赤い点は風船なんだろう
内からは開かぬドアや梅雨の入り
橘の花や亡母の鯨尺
帆布トートに澄子の句集七変化
冷やし中華女子ゴルファーのカレンダー
ハンモックいちゃいちゃといふオノマトペ
回し飲むポカリスエット雲の峰
老翁の裸身キリストめく真昼
反る背に翼の名残ねじればな
すててこや放屁に返事する妻と
秋暑し震へて止まる洗濯機
空高し双子専用ベビーカー
埋め立ての町に浜の名みやこ鳥
湯気立てや役割ごとのユニフォーム
猪鍋やまず靴下を脱ぐ男
雪つぶて好きの重さが不等号
駆け足の形の木馬春愁ひ
三月や「あの日」と名付く日のありて

第五回円錐新鋭作品賞 編集部より

過去最多67編のご応募をいただきました(第一回の募集は47編、第二回は40編。第三回は58編、第四回は46編)。実に驚きです。同人誌の企画にこれだけ多くの方々が参加してくださることに、感動しています。

 募集条件は、未発表の20句(多行作品は10句)。作者の俳句歴や年齢などの条件、一切不問。選考は、円錐編集部・澤好摩、山田耕司、今泉康弘。ご応募の折に、編集部からは各作者に版面の著者校正を依頼。それから審査に。今回は、感染症拡大予防への対応として、座談会はいたしませんでした。各自が自分のペースで選び、評を執筆しています。 

 審査の上、20句を対象に、第一席から第三席までを選出。1句単位での顕彰は、5句。あらたに「これからに期待する作家」という枠を設けさせていただきました。

 編集部としては予想していたことではあるのですが、三人の審査員の推薦作品が、まったく、重なりません。バラバラです。これこそが、個々の価値観を頼みに活動する同人誌ならではの結果、と言えるのかもしれませんが。

 ご応募くださいました皆様、そして、募集情報の拡散などにご尽力くださいました皆様に、あらためて感謝と敬意を捧げたく存じます。           

             (円錐編集部・山田)