花車賞 木幡忠文「去るとき」

振り仰ぐ冬嶺はただ息ひそめ
世に言葉忘れて帰り花となる
後追ひの蕾に押され福寿草
水仙の隠し化粧や夕日透く
春コートまとひて風と共にゆく
日の注ぐ真中を上る雲雀かな
踏まれゐし蒲公英の泥払ひやる
蜷の道あちこち心移りかな
人去りて河原に残る夕桜
桜散るうたかたの言葉の中を
活けられて壺に混み合ふ牡丹かな
濡れながら色鳥は世の色を負ふ
秋桜音を成さずに揺れにけり
伐る我を見つめてをりぬ冬薔薇
冬の山川音と我が息遣ひ
雪の香を微かにまとふ夜風かな
時巡り同じところに福寿草
片栗の花に蝶きて口づけす
ひと光淡雪が手に消ゆるとき
さり気なく去らむや桜散るごとく