夢前賞 「竹ノ塚心中」 大塚 凱

夢前賞(樋口由紀子 推薦) 第二回 円錐新鋭作品賞


似た夜やおでんの隅に塵の浮く

枯蔓を少し引いてもわからない

肉球の凍ててトタンを渡る音

都営団地バケツみどりに水凍てる

湯気立てや豆苗おのづから育ち

セーター薄くつばめの来ない部屋に棲む

春めきの穴があつたら覗く癖

卒業の肩凝つてゆく向後かな

ひだまりや田中に生まれなかつた僕ら

ぶらんこの傍のひなたをもて余す

知つてゐるはずの坂道だがかげろふ

ぺんぺん草団地が建つてからくらがり

死後あたたか郵便受けをあふれる紙

てさぐりの躑躅の方へ吐きにゆく

寝て夏を塩酸つくるからだかな

あぢさゐへうつむいてゐるいろんな母

あかるみに水鉄砲の水腐る

ぎらぎらと孑孒煮える一斗缶

黙々と塔のかたむく蟻の上

蠍座や公園ぬるくつるみあふ