涼野海音「雪女」

小林恭二 推薦 第二席  第8回円錐新鋭作品賞

燕来る山は己の色知らず
花冷の樹のこゑ空を上りゆく
詫び状が来る花冷の昼下り
爆心のしづけさに似て蟻地獄
炎昼の磐座を翔つ大鴉
蟻食の舌長々と大暑かな
夏逝くやドリンクバーの端にゐて
仏塔の壁の剥落終戦日
妻恋の歌口ずさむ秋の草
序文なき句集閉ぢたる天の川
秋風鈴純文学に倦みし頃
頂を隠す白雲西郷忌
手品師の休日小鳥来たりけり
師を訪はぬ歳月長し葉鶏頭
子午線の上に家あり鳥渡る
ピッチングマシーンの音冬に入る
雪嶺に雲父の眼か母の眼か
次の世も次の世もまた雪女
白鳥の声に滴りさうな月
初日さすなりガンジーの丸眼鏡

推薦作品

第8回円錐新鋭作品賞

小林恭二 推薦

新聞紙すらりと割いて焼藷屋      播磨陽子
墓参りスプーン曲げられる叔父と   三島ちとせ
風船が押すな押すなと死出の山      立木司
パ ラ イ ソ は ・ 日曜の夜のひと家族 とみた環
ころされたぼくの神さまありがとう   田中目八

山田耕司 推薦

聖歌たからか自販機に白湯がない   山田すずめ
凍鶴はねぢれ知恵の輪はじけ飛ぶ    佐藤研哉
頬杖の杖を剥がして割る焼酎       かくた
生牡蠣や住所氏名の字をくづす クズウジュンイチ
磔の女滝受肉未遂の咎          日月連

今泉康弘 推薦

あの子さえいなかったなら木下闇    大野美波
次の世も次の世もまた雪女       涼野海音
ばいきんをなすりつけあふさくらかな 山本たくみ
風船が押すな押すなと死出の山      立木司
マグマただ滾る 扇を落としても   細村星一郎

織田亮太朗 「■■者」

白泉賞 (今泉康弘推薦 第8回円錐新鋭作品賞)

我が■■を耕す諸君に告ぐ
感情力学の■■に芽吹く
自我と■■観の分離に霞
飛花落花階級国家■■化
脳髄を■■色に滴りぬ
無辜の民として■■性の蟻
■■派反■■派皆裸
権謀術数の火蛾又は■■
世論操作せる■■の耳涼し
苦笑ふ■■態とらしく虹
■■式無知蒙昧を踊りけり
案山子の両手両足両首に■■
曼殊沙華型■■暮れ残る
害虫益虫■■虫虫虫虫
月の警察の襟章にも■■
■■種一代雑種吹雪けり
雪眼にて事実検証後の■■
罪状は■■と告げたる霜夜
瘦身の■■省を出て四日
非■■の中も■■石鹼玉

青木ともじ「篝」

白桃賞 (山田耕司推薦 第8回円錐新鋭作品賞)

目で追うて木目短き暮春かな
カットせず残す燕のゐるシーン
藤棚や煤のごとくに地に光
髪も歯も無き母の日の絵を飾る
風鈴を仕舞ひて旅へ出でにけり
肩紐の褪せてきてゐる水着かな
すぐ闇に戻る花火の発射台
裏庭に金魚を埋めし黒さかな
八月に篝のやうな船ひとつ
灯台のためのポストや鴨渡る
菊の日の只中にゐる調律師
宵闇やパンに乗せたきもの揃ふ
湯の柚子を遊ぶほかにも用ゐる手
永遠に走るバナーのサンタかな
二人して人参買うて来てしまふ
初夢に君はゐなかつたと思ふ
豆打の声に子のゐることを知る
ラジオから鯨を追へる人のこと
酔ひたれば雪折とほくおもひけり
写真館のサンプルずつと冬の人

佐々木歩「たましひの器」

荒野賞 (小林恭二推薦 第8回円錐新鋭作品賞)

猟銃で撃つ真実にあるものを
見つからぬ枯野にひかる正体が
木菟を聞く少年がきえてゆく
溺れたら人に生まれる冬銀河
腫瘍から焚火の音がしてをりぬ
安全弁だつたはずだがこの海鼠
炬燵には焚書もされぬ書ばかり
鮟鱇にする祈らねばならぬなら
聖画かと思つて敷いた蒲団かな
啼けば赤児泣けば老婆や雪女
逢ひにゆく火につつまれた家を過ぎ
おでん種どれも逃げ出す気配なし
花婿がをるかもしれぬ凍土掘る
羽子板の女の顔をして捨てる
殺し終へたならコートを脱ぎたまへ
詩人とは雪に指紋をつけし人
たましひの器のはての結氷湖
白鳥はすべてが怖い日の白さ
寒椿落ちるところは決めてある
手毬唄からだの底に何かある

第八回円錐新鋭作品賞募集のお知らせ

●未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)

●受付開始 2024年1月15日

●応募締切 2024年2月15日

●年齢・俳句歴の制限はありません。

●応募料・審査料などの経費は一切必要ありません。

●ご応募の際には、お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの連絡先をお書き添えください。折り返し、編集部より連絡申し上げます。

●受賞作品は「円錐」101号(2024年4月末日刊行予定)に掲載。

●選者
小林恭二(特別選者)
山田耕司
今泉康弘

宛先 円錐編集部 ensuihaiku@gmail.com

ホームページ http://ooburoshiki.com/haikuensui/
※上記HPにて、今までの受賞作品・審査コメントなどをご覧いただけます。

澤 好摩 逝去のお知らせ

澤好摩が逝去しました。

死因は、脳挫傷。

死亡時刻は、7月7日の午前10:35。

東北方面に一人旅に出ていた澤さん。旧友を訪ねる旅でした。仙台で一泊し、米沢へ移動。楽しい時間を過ごした後、ホテルに戻り、タクシーから降りたところで転倒し頭を強打したそうです。

ホテルのスタッフにより救急車が呼ばれ、緊急搬送。病院では、まだ意識があったとのこと。

翌日も、医療チームにより治療がほどこされていましたが、午後遅くになり意識が混濁し、金曜日の逝去に至りました。

ご親族だけによる密葬にて静かにお送りしました。

ご親族のご希望により、ご自宅への香典・供花・ご弔問はかたくお断り申しあげます。

生前のご厚誼に感謝申し上げ、ここに謹んで澤好摩逝去をご案内申し上げる次第です。また、連絡不行き届きの点多々あるかと存じますが、おゆるしいただければ幸いです。

なお、「澤好摩を偲ぶ会」を友人有志にて 今秋には開催する予定です。詳細につきましてはあらためてご報告申し上げます。

                  文責 山田耕司

澤好摩(さわ・こうま)1944年 東京生 享年79歳

澤好摩  「澤好摩 河口聖 句画展」にて (撮影 野崎眞理子氏)

第七回円錐新鋭作品賞 編集部より

 第7回です。
 今回は79編のご応募をいただきました(第1回47編、第2回40編、第3回58編、第4回46編、第5回67編、第6回63編)。過去最多です。
 紙媒体の俳句同人誌に多くの方々のご応募をいただき、今回も感動しております。
 募集条件は、未発表の20句(多行作品は10句)。作者の俳句歴や年齢などの条件、一切不問。選考は、円錐編集部・澤好摩、山田耕司、今泉康弘。ご応募の折に、編集部からは各作者に版面の著者校正を依頼。それから審査に。今回も、感染症拡大予防への対応として、座談会はいたしませんでした。各自が自分のペースで選び、評を執筆しています。 
 審査の上、20句を対象に、第一席から第三席までを選出。句単位での顕彰は、5句。毎度のことではございますが、三人の審査員の推薦作品が、まったく、重なりません。バラバラです。これこそが、個々の価値観を頼みに活動する同人誌ならではの結果、と言えるのかもしれませんが。
 ご応募くださいました皆様、そして、募集情報の拡散などにご尽力くださいました皆様に、あらためて感謝と敬意を捧げたく存じます。           

            (円錐編集部・山田耕司)