第9回 円錐新鋭作品賞

逃げ水賞(伊丹啓子推薦)

有瀬こうこ 「転調」    読む

白桃賞(山田耕司推薦)  

桃園ユキチ 「発熱」    読む

白泉賞(今泉康弘推薦)

垂水文弥  「鬼の子にんげん」  読む

推薦作品(一句推薦)       読む

伊丹啓子推薦第二席 花島照子「音楽が終わる」 読む
伊丹啓子推薦第三席 山本絲人「手の国」    読む

山田耕司推薦第二席 ふるてい「絵の全容」  読む
山田耕司推薦第三席 紺乃ひつじ「三種類」  読む

今泉康弘推薦第二席 ミテイナリコ「ドードーの生成」   読む
今泉康弘推薦第三席 おおにしなお「うまれるまでの花わすれ」 読む

伊丹啓子 選評 「逃げ水を追って」       読む
山田耕司 選評 「多様性 その森へ」      読む
今泉康弘 選評 「俳句、来たるべきもの」    読む

第9回円錐新鋭作品賞  編集部より      読む

『澤好摩俳句集成』を手に 横山康夫

 澤好摩の三周忌を迎へたこの夏、『澤好摩俳句集成』が成つた。刊行に尽力した山田耕司同人に心から感謝の意を表する。また多くの方々のご協力にもお礼を申し上げたい。


 『集成』の装幀は瀟洒でその飾り気のなさが好ましい。澤好摩は兔が好きで自分でも飼つて可愛がつてゐたが、その兔が装画として配されてゐるのも納得である。卷末に初句索引や季語索引を載せてくれてゐるのも有難い。作品の全てを覚えてゐるわけではないし、作品を覚えてゐてもどの句集だつたかといふのを思ひ出せず迷ふといふやうなこともあるからである。一つひとつの句集にあたらずともこの『集成』一冊ですぐに確認できるのは助かる。


 わたしは遠く離れた地にゐて小さな句会の仲間とともに俳句を書いてゐる。だから現在の俳句界がどのやうな状況にあるかといふことには疎い。〈展展望望〉の編集趣意に相応しい内容には到底ならぬだらうが、『澤好摩俳句集成』を手にとつてそこから喚起される思ひを述べることで責めを果たしたい。


 澤好摩の最初の句集『最後の走者』は初期の作品から「青玄」に所属しその影響を受けた頃までの作品で構成されてゐる。ごく初期の作品の中には、


  天に雨の降り残しなし鬼あざみ


といふやうな抜群の安定感を示す作品やその抒情の原点を示す作品もあるが、多くは習作といつてもよいものであらう。手探りで書いてゐるといふ感じを受ける。それは澤好摩自身がその「あとがき」に「何をどのように書くのかということは疑問に包まれたまま」とか「一体ぼくは何を書こうとしているのか」と書いてゐることからも分かる。「青玄」に参加したのも「何をどう書くか」といふ答へを求めてのことであつたらう。


 一九七〇年に一年半程の関西での生活を終へて東京にもどつた澤好摩はすでに「青玄」の影響から脱してゐた。わたしはその辺りからの澤好摩の俳句に大きな変化を感じ目を奪はれる思ひだつた。「青玄」の影響下の句は書き方が変はつたといふ感じが強かつたが、もどつてからの作品は根底から変はつたといふ感じを受けた。その作品は多く『印象」に収録された。なかでも次のやうな作品は今でも深く心に残る。


  ものかげの永き授乳や日本海
  百日紅ひとりでをるは深傷負ふ (深傷にルビ「ふかで」)
  空高く殺し忘れし春の鳥


私はこれら『印象』に収録された作品を書いてゐた頃の澤好摩が最も輝いてゐたやうに思ふ。それは「何をどう書くか」といふことに一定の答へを見出してゐたからではなからうか。これらの作品が書かれたのは「俳句評論」に所属してゐた頃である。


 「俳句評論」に所属する契機になつたのは折笠美秋の知遇を得たことによる。当時、同人誌「辛夷」二号(一九七一年)の〈編集手帖〉に、富澤赤黄男の箴言「蝶はまさに〈蝶〉であるが〈その蝶〉ではない」(クロノスの舌抄)を採り上げて、「言語の仮構性という面から改めて俳句の構造を捉えなおす」との傾向に賛意を示しつつ、「言語の問題を軸にして、未来の俳句への模索を持続」すると澤好摩が書いたのを読んだ折笠美秋が声をかけてきたのである。「これは〈俳句評論〉へのシグナルだと受けとめました」と言つた折笠美秋の言葉が今も私の耳に残る。


  木の箱に納まるわれももみぢせり  『印象』


 折笠美秋に、
  桐箱でおさまるいのちではないか  『虎嘯記』


といふ句があつて、「木の箱」の句は明らかにこれに影響されて書かれた作品と思はれる。澤好摩は折笠美秋の知遇を得てから、「俳句評論」や俳句総合誌などに発表された折笠美秋の作品を独自に渉猟し、折笠美秋の句集が刊行されるより遙か以前に、「折笠美秋作品抄」を作つた。謂はばそれほど私淑したといふことであらう。「影響されて書かれた」と言つたが、より正確には呼応して書かれたといふべきだらう。「おさまるいのちではないか」との確信的呼びかけに、「納まるわれももみぢせり」と応へてゐるのである。少人数で同人誌を出したばかりの若者に声をかけてくれた先達への敬意の気持ちもあつたかと思はれる。両者ともに鬼籍の人となつた今、この二つの作品から二人の関係、殊に折笠美秋が与へた澤好摩への影響に改めて思ひを巡らす。


 紙幅が無くなつてきたので少し急ぐが、晩年の澤好摩に対して保守化してゐるのではないかといふ危惧があつた。私はそのことを直言して長文の反論を貰つてしまつたが、かうして全体を見通せる『集成』を読み、やはり最も鋭い輝きを示してゐるのは『印象』『風影』だといふ印象は拭ひ難い。『光源』『返照』を否定する気は無論ないが、如何に優れた作家といへど、齢をとれば挑むよりもそれなりに落ち着きを示すやうになるのは当然であらう。仮にそれを保守化と見られたとしても、澤好摩は言葉と真剣に向き合ひ、自らの作品の一層の深化に専心し続けたのだと思ふ。 

第十回 円錐新鋭作品賞募集!

●未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。 作品にはタイトルをつけてください。

●受付開始 2026年1月15日

●応募締切 2026年2月15日

●年齢・俳句歴の制限はありません。

●応募料・審査料などの経費は一切必要ありません。ご応募くださった作品の著作権は作者に帰属します。

●ご応募の際には、お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの連絡先をお書き添えください。折り返し、編集部より連絡申し上げます。

●受賞作品は「円錐」109号(2026年4月末日刊行予定)に掲載。

●選者
赤羽根めぐみ
山田耕司
今泉康弘

宛先 円錐編集部 ensuihaiku@gmail.com

ホームページ http://ooburoshiki.com/haikuensui/
※上記HPにて、今までの受賞作品・審査コメントなどをご覧いただけます。

『澤好摩俳句集成』を読む  加藤治郎

桜貝きらめく波に見失なう  『最後の走者』

 桜貝がきらめく、そしてきらめく波がある。桜貝と波が渾然となったとき、見失なう。なんと美しい句だろう。見失なったのは想い人かもしれない。桜貝の可憐さと重なる。

男の昏睡続く 海底を蟹流れ  『最後の走者』

 昏睡のとき意識があるとすれば、暗い海底を蟹が流れている様子だろう。蟹は無力でただ流れている。

木の箱に納まるわれももみぢせり  『印象』

 この木の箱は棺だろう。納まるという窮屈な感じがそう思わせた。死後の自分も紅葉して華やぐのだ。

打楽器の一音ごとにはじまる圧死  『印象』

 どっどっどっと打楽器が鳴る。不穏な空気を直感し圧死に至った。これから圧死が始まるのだ。怖ろしい。大量殺戮を感じる。577の形式もふさわしい。

寒雲に片腕上げて服を着る  『風影』

 スケッチが絶妙である。寒雲に突き刺さるような腕だ。屋外の男である。たぶん野原だ。服は髙山れおな氏によればコートである。セーターかと想像した。セーターというのも不毛な話で、服は服なのだ。

杉林雲に晩年あるごとし  『光源』

杉林を見て、雲を見る。視線は高い。雲に晩年を見た。静かな境涯の句である。

的の矢を引き抜き年を惜しみけり  『返照』

身体感覚が冴えている。矢を引き抜く手応えと一年への深い思いが照応している。

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澤好摩俳句集成 寄贈先一覧

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日本近代文学館

日本現代詩歌文学館

俳句文学館

神奈川近代文学館

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群馬県立土屋文明記念文学館

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東京都立中央図書館

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白山市立 千代女の里俳句館

鳥取県立図書館

三重県立図書館

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群馬県立図書館

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東京都立中央図書館

山口県立図書館 

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澤好摩俳句集成 ご注文

澤好摩俳句集成

2025/08/15 刊行 山田耕司編集 ふらんす堂

現在では入手困難な既刊五句集に「『返照』以後」の作品を加えた1469句を収録

栞 小林恭二 高山れおな

四六判変形上製カバー装・338頁

年譜・初句索引・季語索引つき


寄付金付セット10,000円

(本体価格6,600円(税込) 送料無料 オリジナルクリアファイル付)

寄付金分は、すべて、公的機関(文学館・図書館など)への本書寄贈分に充てられます。

通常販売7,000円

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(『澤好摩俳句集成』申込メール)

澤好摩俳句集成 いよいよ出版!

澤好摩 2023年7月7日 急逝

入手しにくかった澤好摩の作品集を、一冊に。

その思いから製作が始まった『澤好摩俳句集成』

2025年8月15日 いよいよ出版。

皆様のお手元へ旅立つ日を迎えます。

円錐106号

円錐106号 2025年7月31日発行
特集 澤好摩没後二年
   横山康夫/味元昭次/山田耕司


第九回円錐新鋭作品賞受賞者最新作


七月七日の詩学 星の契り編(最終回) 今泉康弘
ロラン・バルト『表徴の帝国』試論 ⑶ 吉冨快斗
ひっちはいく「非在と実在の間」    摂氏華氏

特別作品
つつがなく    福田 潤子
パーマネント 赤羽根めぐみ
全身        神山刻


バックミラーにはゲストとして依光陽子さんをお迎えしました。