青木ともじ「湯を沸かす」

澤好摩 推薦 第二席

よく響く新居のチャイム木の芽和
桜へと急ぐ景色をかきわけて
城壁につづく日永の崖あらは
空箱を畳んで積んで苗木市
ピザ在りし箱の湿りや夏の月
保冷剤羅ごしに感じけり
わが沖を夜焚動かぬ不安かな
ボートからあをあを見えて知らない樹
水深の数字かすれしプールかな
秋天を組み換へてゆく観覧車
菊の日の一杯分の湯を沸かす
吾の来るを案山子を出して待つてをり
鍵穴の奥に固さや虫時雨
檸檬温室(リモナイア)夜も輝いて地中海
棘のある花だと知つてゐてあげる
夜廻へ茶殻を捨ててから向かふ
検温に曝すおでこや淑気満つ
毛布はや犬にとられてゐる父よ
佳き人を演じて細き葱を買ふ
まだ雪を知らぬ雪吊並びけり

池田宏睦「奥」

白泉賞(今泉康弘 推薦)

囀に戦争が承認される
ぼたん雪はじめて人を撃つ朝に
兵募る電子看板亀鳴けり
朧夜へ緊急発進(スクランブル)の機体発つ
空襲警報余寒の部屋に蹲る
空襲のきれいな動画春浅し
北窓を開くあちこちに黒煙
君子蘭の鉢が斃れてぐちよぐちよに
灰燼の音楽堂や鳥曇
配給の粉の珈琲春の闇
桜蕊降る六本木駅地下壕
蝶だつた無限軌道(キャタピラ)に轢かれるまでは
虐殺の後陽炎が立つてゐた
撤退す春野に骸のこしつつ
ばらばらの屍体を拾ふ朝ぐもり
卯の花腐し街に居坐る不発弾
右脚が切断される涼しさよ
夕虹を撃ち落とす角度に加農(カノン)
人を撃つ人を撃つ人夏の霧
無人機に特攻命令夏至の海

吉冨快斗「遮断機壊してまわる」

白桃賞 (山田耕司 推薦)

遮断機壊してまわるきみに緑の痣をやる
舌切られてもボンデージ平仮名なら甘い
口でレースの下着剥ぐとき放銃の記憶が
培養肉食べるきみに来る初夜何度何度も
目蓋の裏に揃いの刺青を彫る夢見て寝る
熱病の児すぐ手袋へ変わる未分化の秋よ
火焔瓶に性交渉交渉人の実印詰め投げる
河消えもしよもしよと蛋白質咥える母子
フロー図を書きながら真赤な日思い出す
朝寝坊暴動は明後日に伸ばしてまた布団
睫毛食べあうそのたびに禁煙しています
カヌレがたまに固くて柔らかいスポンジ
星間無線きみ真白い声で反革命を口遊む
きみは別だけど損切りばかりするおれ犬
上着に豆乳溢しても念のため粋がる事後
きみ嫌ってた一般性高い幕張で寝具買う
形が無いと知れば尖らず丸まらず大人か
欲だけ追ってみるか!みたいな青年あり
金に目がない死にたくない詩人然として
小さなゴミ袋使い始めてからなんだか春

推薦作品

第七回円錐新鋭作品賞

澤好摩 推薦

氷りたるものをつたひて氷りけり    土屋幸代     
城壁につづく日永の崖あらは     青木ともじ
水耕の根のよぢれあふ去年今年    杉澤さやか       
海の日や背を向け合ひて服を脱ぐ    正山小種
凍鶴を花に分類してしまふ      有瀬こうこ

山田耕司 推薦

春の日の棒を拾へばすこし振り    奥村鼓太郎
ゴミとゴミ堆くゴミ夕霞      ミテイナリコ
定義から公理へ雪を割って行け     千住祈理
喇叭花を喇叭に南無と言へば南無    髙田祥聖
アリバイを訊かれてみたい夏館    山本たくみ

今泉康弘 推薦

誰でもよかった誰でもエエンレラ  ミテイナリコ
媚び上手チワワではない俺がです  海音寺ジョー
茄子の馬あなたにはちいさかったかな 椎名案山子
朝寝坊暴動は明後日に伸ばしてまた布団 吉冨快斗
春の虹 Hey,Siri やっぱ何でもない   平野光音座

第七回 円錐新鋭作品賞

花車賞(澤好摩推薦)

土屋幸代「泥に立つ」      読む

白桃賞(山田耕司推薦)

吉冨快斗「遮断機壊してまわる」 読む

白泉賞(今泉康弘推薦)

池田宏睦「奥」         読む

推薦作品(一句推薦)    読む

澤好摩  第二席  青木ともじ「湯を沸かす」 読む

澤好摩  第三席  杉澤さやか「香の物」   読む

山田耕司 第二席  藤田俊「口腔」      読む

山田耕司 第三席  あさふろ「点滅」     読む

今泉康弘 第二席  細村星一郎「喝采」    読む

今泉康弘 第三席  とみた環「まぼろせる」  読む

       ・・・

澤好摩  選評 想像力とその波及効果  読む

山田耕司 選評 みずからを縛る自由を  読む

今泉康弘 選評 季節の地獄       読む

       ・・・

第七回円錐新鋭作品賞 編集部より    読む

97号 発行が遅れています

第七回円錐新鋭作品賞 結果発表を掲載した97号

予定では4月末日に出版される予定でしたが

発行が遅れています。

5月13日にまでには発行される予定です。

楽しみに待っていてくださった皆さまにご心配をおかけして申しわけありません。

いましばし、お待ちくださいますよう。

円錐編集部 編集人 山田耕司

第七回円錐新鋭作品賞募集要項

*未発表の俳句作品20句をお送りください(多行作品は10句)。

*作品にはタイトルをつけてください。

*受付開始 2023年1月15日

*締め切り 2023年2月15日

*年齢・俳句歴の制限はありません。

*受賞作品は「円錐」97号(2023年4月末日刊行予定)に掲載いたします。

ご応募の際には、お名前(筆名・本名)、ご住所、メールアドレスなどの
連絡先をお書き添えください。折り返し、編集部より連絡申し上げます。

推薦作品 

第六回円錐新鋭作品賞

澤好摩 推薦作

十六夜の独身寮の外階段        吉野敬子     
歌となりそこねて息の白さかな      古田秀
夜桜からじゅうぶんはなれ聖書よむ  加藤絵里子     
滝壺に朽木の回りつづけをり      山口遼也
万華鏡傾けて雪待つてをり      三島ちとせ

山田耕司 推薦

朝顔が茂る戦争が見えない       土井探花
三寒四温皿にするりとコンビーフ    吉野敬子 
綿虫や呼ばれて目線あふまでの     高瀬早紀
着ぶくれの妹に心音ふたつかな     髙木小都        
天高くベルト通しに囲まれて      あさふろ

今泉康弘 推薦 

秋の沼わたしが覗き込むわたし      帳めも
本気なら西瓜を三秒で食べて       藤雪陽  
月それは光らせられて光る岩       岡一夏    
皸に鱗のささるたんじやうび      小泉野魚      
河童忌のまな板ずっと濡れている     牧野冴

花車賞 木幡忠文「去るとき」

振り仰ぐ冬嶺はただ息ひそめ
世に言葉忘れて帰り花となる
後追ひの蕾に押され福寿草
水仙の隠し化粧や夕日透く
春コートまとひて風と共にゆく
日の注ぐ真中を上る雲雀かな
踏まれゐし蒲公英の泥払ひやる
蜷の道あちこち心移りかな
人去りて河原に残る夕桜
桜散るうたかたの言葉の中を
活けられて壺に混み合ふ牡丹かな
濡れながら色鳥は世の色を負ふ
秋桜音を成さずに揺れにけり
伐る我を見つめてをりぬ冬薔薇
冬の山川音と我が息遣ひ
雪の香を微かにまとふ夜風かな
時巡り同じところに福寿草
片栗の花に蝶きて口づけす
ひと光淡雪が手に消ゆるとき
さり気なく去らむや桜散るごとく