桜貝きらめく波に見失なう 『最後の走者』
桜貝がきらめく、そしてきらめく波がある。桜貝と波が渾然となったとき、見失なう。なんと美しい句だろう。見失なったのは想い人かもしれない。桜貝の可憐さと重なる。
男の昏睡続く 海底を蟹流れ 『最後の走者』
昏睡のとき意識があるとすれば、暗い海底を蟹が流れている様子だろう。蟹は無力でただ流れている。
木の箱に納まるわれももみぢせり 『印象』
この木の箱は棺だろう。納まるという窮屈な感じがそう思わせた。死後の自分も紅葉して華やぐのだ。
打楽器の一音ごとにはじまる圧死 『印象』
どっどっどっと打楽器が鳴る。不穏な空気を直感し圧死に至った。これから圧死が始まるのだ。怖ろしい。大量殺戮を感じる。577の形式もふさわしい。
寒雲に片腕上げて服を着る 『風影』
スケッチが絶妙である。寒雲に突き刺さるような腕だ。屋外の男である。たぶん野原だ。服は髙山れおな氏によればコートである。セーターかと想像した。セーターというのも不毛な話で、服は服なのだ。
・杉林雲に晩年あるごとし 『光源』
杉林を見て、雲を見る。視線は高い。雲に晩年を見た。静かな境涯の句である。
的の矢を引き抜き年を惜しみけり 『返照』
身体感覚が冴えている。矢を引き抜く手応えと一年への深い思いが照応している。













