田村転々 「鮫や缶」

第10回 円錐新鋭作品賞 白桃賞(山田耕司推薦)

描く人に離れ夜店の銃つめた
桃の種の滑りやすさに夜の雲
溜め息のまはりがオリーブと分かる
流星に何かの許可や電話来る
秋昼寝トイレの鳥のこゑは嘘
時雨中ポストに手ごと手紙入れて
薬局にお菓子が並ぶおほいぬ座
つむれる目消しても暖房がにほふ
牡蠣の岩踏むたび牡蠣をこはしつつ
浜に大きく真冬の頬で名をしるす
蝶よタグを剥がした痕の汚い糊
駅に入るだけの切符や春セーター
ものの芽の遠くから来て煙草踏む
海を撮る四月の流木にすわり
雨ずつと傘を鳴らして春の雨
水槽のさはれる鮫や缶コーラ
寝冷えした焼きそばの湯の流れてゆく
泳ぎからこはい唇して戻り来る
雲を忘れて麦を笛また野草を笛
蜜豆の蓋のたうめい樹下へゆく