伊丹啓子推薦 第二席 第9回円錐新鋭作品賞
ひらかれて本に扉や百千鳥
三月の鏡に映る番がくる
水温む歯科にきれいな歯のマーク
人ひとり視野に収める春の土
安吾忌のまばゆいものを風と呼ぶ
紫陽花をわたしは犬で連れていく
まっさらなプールに髪が嘘みたい
ベランダは箱舟なのにひとりきり
壊れない程度に蟻はよく動く
たんじゅんな夜に揺蕩うアロハシャツ
わらうとき奇術の手つき小鳥来る
鰯雲むきだしのまま鉄に触れ
まちがえて顔燃えているすすきはら
露草と川になれないジャズギター
鳥渡る小学校は祈られて
まっくらで且つ裸木は目にわるい
ぼた雪とこれから音楽がおわる
早梅を後ろ手に目のまるいひと
日脚伸ぶバックパックは軽いのに
天使の輪ぺらんと剥がす羽蒲団