桃園ユキチ「発熱」

白桃賞(山田耕司推薦 第9回円錐新鋭作品賞)

獣医師が赤ちゃん言葉しずり雪
縄跳びの少女身体を持て余す
手のひらに馬の脈拍花薺
蝶々や立てばまどかに視野の欠け
口内にミルクの粘り春の庭
苗床やくすぐるように水をまく
病院を包囲している夜の躑躅
人の手に小さき水掻き草いきれ
河童忌の胃の腑が肉を押し返す
日傘畳む鳩尾へ柄を突き立てて
口笛にならぬ息あり青葡萄
昼に寝て六畳広し棗の実
小鳥来る波の欠片を鳴らしつつ
たくあんの匂いの電車秋日照
今年米炉端に貝の騒がしき
宵寒や水平線は下まぶた
切っ先にごぶりと海を吐く海鼠
空風や裂け目のごとく口があり
耳奥に熱のさざめき冬落暉
霜焼の手は海羊歯を飼っている