今泉康弘 推薦 第二席 第8回円錐新鋭作品賞
雪まじるインクとミルク、イノセント
花捥いで無神論者のギプスとす
肉体に影の匿さる窪みなし
逃げる鼠追ひて漏るる脳漿
曇天に木枯は急く肉吊されし野に
鍵はみな外されてをり紅き薔薇
清冽な麻薬だ花のふりする貝は
少年に舌を吸はせる獏老いて
磔刑図収めし檻に氷柱垂る
血の補色たまりし部屋に赤き霜
吹雪の夜に問ふ血はどこにあるか
盲人の乳首に生えるバニラの木
透きとほる聖者の窓に椿象たかる
風に虹、地には声なき叫び満つ
叫喚止まず教室の天上にイコン
夏至の日の雪法王は口で受ける
悲嘆漏れ落ちて蝙蝠傘ひらく
砂粒のごとき虫に食はれてゆくわたし
十字架を降りる紫海鼠かな
ベラスケスの貌削いでゆく百合の花