内野義悠「薬効」

小林恭二 推薦 第三席 第8回円錐新鋭作品賞

起き抜けの水ふくろふと分け合はむ
舌禍はや忘れ車窓をすべる雪
感光の鶴のうらがはにも妬心
凝血のまぎは狐火紛れたり
夜伽せむまなじりに遠火事を留め
瀬音まづ朝寝の身ぬち明るくす
脈拍をふたつ飛ばしに梅ふふむ
古巣ふくらむ降り出しの雨呟けば
揺する木を掌の憶えゐし穀雨かな
花篝ふつふつ文字は疎となりぬ
うすものやめぐりてみづにみづのおと
見晴らしを息がつづいてソーダ水
西日まで舵輪回せば白き午後
スケジュール埋めよ天使魚濁らせよ
未練縷々玉虫が濡れたてのいろ
たどりゆく履歴白桃からしづく
穴惑ひ手燭に奇書のつまびらか
私信眠らせ烏瓜揺すりゐる
薬効のするどく小鳥だけは来る
ゆく秋や壁紙に爪痕を引く