荒野賞 (小林恭二推薦 第8回円錐新鋭作品賞)
猟銃で撃つ真実にあるものを
見つからぬ枯野にひかる正体が
木菟を聞く少年がきえてゆく
溺れたら人に生まれる冬銀河
腫瘍から焚火の音がしてをりぬ
安全弁だつたはずだがこの海鼠
炬燵には焚書もされぬ書ばかり
鮟鱇にする祈らねばならぬなら
聖画かと思つて敷いた蒲団かな
啼けば赤児泣けば老婆や雪女
逢ひにゆく火につつまれた家を過ぎ
おでん種どれも逃げ出す気配なし
花婿がをるかもしれぬ凍土掘る
羽子板の女の顔をして捨てる
殺し終へたならコートを脱ぎたまへ
詩人とは雪に指紋をつけし人
たましひの器のはての結氷湖
白鳥はすべてが怖い日の白さ
寒椿落ちるところは決めてある
手毬唄からだの底に何かある