土屋幸代「泥に立つ」

花車賞 (澤 好摩 推薦)

梅東風や子が頭を入るる鯨幕
足跡の重なりてある梅の前
紙芝居始まる歌や桜の芽
弁当箱の底掻く箸や昭和の日
雨少しかかるテラスや青葉騒
木の根跨ぎ跨ぎ夏帽子の子供
足元の混み合うてゐる蓮の花
生身魂カレーの肉をしゃぶり食ひ
この下に骨壷がある墓洗ふ
鳥の羽根泥に突き立つ野分晴
ネルシャツの首掻く癖や小六月
釣り人のポケットラジオより第九
経行の僧が一人や年の暮
棒杭のごとく佇つ人初日の出
吐く息に初日の影のいたりけり
鯛焼きの羽のぱりつとお正月
ホームレス歩く二日のスーパーを
三界の骨正月の女たち
白樫の木末揺れをり雪の奥
氷りたるものをつたひて氷りけり